第539話 女帝陛下の恩賜#2

女帝陛下は、小夜啼鳥ピドールカ捜索と捕獲のため、

首府みやこにいる官吏と警邏に、あらゆる協力を求めることのできる命令書を与えて、2人を送り出した。


小夜啼鳥ピドールカを捕まえても、妾に知らせるには及びませんよ。」


孫ほども歳の離れた客人に、女帝は別れ際に言った。

その眼差しは優しく、しかし世の祖母らが滅多に備えてはいない威厳が煌めいていた。


「陛下、それは、なぜでござりましょう~~。」


「そなたたちが捕まえたと知ったら、それはもう、妾の『いちばん大切なモノ』ではなくなるからです。

狩人の諺に言うではありませんか、『最高の獲物は、いつも取り逃がした一羽』と。」



宮殿を出て、再び2人と一匹は、どこもかしこもこんもりと雪の積もった首府みやこの通りを歩いた。

街灯は相変わらず街を照らしていたが、あまりにもびっかびかの宮殿から出てきた落差でひどく暗く見えるのと、

実際に夜遅い時間になって、人通りも少なくなってきたようだ。


寒さもいっそう厳しく、アーニャは少し心細くなってきた。

スネグルシュカ雪むすめは寒さなんて感じないのだろうけれど、

このままじゃ、わたしアーニャはともかく、ワーニャは冬眠しちゃうかもしれないわ。

どこか、お役所か警察署でも行って、女帝陛下の命令書を見せてお願いすればいいかしら、一晩泊めてください、って。

でもこの時間じゃどこも閉まっちゃっているかもだわ。。。


スネグルシュカは、相変わらず闇一色の夜空をしばらく見上げて言った。


「うん、うん。


やっぱりかぁーー、ここから先にススムには、

王子さまにお出まし頂かないとーー、だねっ。」


「王子さま?」


今さっき女帝さまに会ってきたばかりなのに??

それとも、”レヴコー”のこと?パンノチカ令嬢の想い人(想われ人?)の。


「レヴコーはレヴコー。

ボクたちが今必要なのは王子さま♬

森で狩りをして、美しい娘を妻にして、なのに悪いウェージマ妖女のブサイク娘に成り替わられちゃう♪

ウッカリものの王子さま♬


王子さまが来ないと、この夜は明けない、

夜明けがこないと、小夜啼鳥ピドールカは鳴かない、

鳴いてくれなきゃ見つからないっ。」


「え、小”夜啼”鳥なのに??」


「真夜中には鳴かないんだよ~~。

鳴くのは宵の口か、夜明け前、It's always darkestの時間なの。」



いざ、王子さまをたずねて、7つの国を7回越えゆかんーー!

と、首府みやこの大通りをあるき去っていく2人と一匹を、遥か上空から見下ろす者があった。

箒・・・いや、臼と杵に跨り、動脈の赤と静脈の青を思わせる、毒々しい色使いのサラファンに身を包んだ、テンプレどおりのウェージマ妖女

ところが、杵を握るその手は白くしなやかで、プラトークの下に覗くかんばせは、誰もが魅惑されずにはいられない絶世の美少女であった。


え・あたし今回この役なの??


内心動揺しつつ、アマリリスはウェージマ妖女の自分に成り切ろうと真摯に努めた。

そして悪い気はしない、案外ハマり役かも。

身動きするたび、その目に宿る光は、翡翠の雫がこぼれるように、闇の中に妖しい飛跡を描く。


今やウェージマ妖女に成り果てたアマリリスに向かって、すでに色あせ、暗くくすんだ首府みやこの通りから、浮かび上がるように昇ってきたものがあった。


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