第313話 魔族の本質#2

唐突にして、それで説明は終わりのようだった。


「それで、あのう、、結局本当のアマロックは??」


「今の説明で腹に落ちんとすると、なかなか難しい問いかけのようだな。


もう一つ言えることがあった。

魔族はどんなに交配を繰り返しても、魔族のまま、ということだ。


対比のために、魔族以外の生物の、種族間交配を見てみようか。

イヌとオオカミは交配可能だ。

両者のあいの子の生体旋律は、確率的に50パーセントづつオオカミとイヌのもので、

これを仮に、その後何世代にも渡ってオオカミと掛け合わせ続けたとする。


すると次世代、オオカミとイヌの合の子と、純血のオオカミを掛け合わせてできるのは4分の3がオオカミで4分の1がイヌという生き物だ。


同様にその次の世代は8分の7のオオカミ、そのまた次の子は、16分の15がオオカミとなり、

これをもう5世代も繰り返せば、ほとんど純粋なオオカミということになってくる。


ところが魔族と他種族の交配はそうはならない。

仕組み上、人狼ヴルダラクが何世代続けて人間と交配しようとも、対位し編曲が行われるのは人間の旋律についてだけ。

オオカミの旋律は、人間の旋律にくっついて何世代もの間、同じ旋律のまま継承され、魔族の特質である、多重表出型や、自己組織化の能力が損なわれることもない。

人間との混血が進んで魔族が人間になってしまう、ということは起こらないんだ。


奇妙な話だとは思わないかね。

魔族は、人間なりオオカミの姿を持ち繁殖も行いながら、魔族の魔族たる特質自体は、その乗り物となる身体の交配と自律創出のプロセスに参加していないんだ。

そう、まさに乗り物、

魔族は自己保存の手段として身体に便乗し、オオカミが持つ牙や、人間としての知性を、それらの上に超然と立ち、道具として利用しているだけに見える。


こんな吸虫の話を知っているかね。

カタツムリと、小鳥を宿主として繁殖する寄生虫だ。


そいつの卵は小鳥の糞に含まれていて、鳥の糞を好んで食べる種類のカタツムリの体内に侵入する。

そこで孵化し、幼生となって、カタツムリの身体と行動に著しい変化を及ぼす。

まず、寄生されたカタツムリの触角が異常に肥大し、赤だの緑だのの縞模様になって、それが蠕動し、やたらと目立つ具合になってくる。


第二に、その信号機のような触角を引っ提げて、普段は天敵に見つかりにくい葉の裏側に隠れているカタツムリが、

わざと上空からよく見える葉の表なんぞに出てきて、じっとしているようになる。


そこに鳥がやって来て、吸虫ごとカタツムリをパクリ。

鳥の体内に入った吸虫はそこで成体となり、膨大な数の卵を生む。

それはやがて鳥の糞に紛れて地上に降り注ぎ・・・

というわけだ。


分かるかね。

この吸虫自体は弱く小さな、自分で地上を這いずることもままならない生物だ。

しかしながら、カタツムリと鳥こそが彼の身体、自身の身体の外に持つ、自己保存のための表出型なのだよ。

そして吸虫にとってカタツムリや鳥は単なる乗り物であって、乗り物自身のの自己保存は彼にはどうでもいいことだ。


おそらく同じ構図が魔族についても成立するだろう。

まだ特定されていないが、多重表出型や、受精時の選択的な対位、それに自己組織化を制御する旋律が魔族にはあるはずだ。


そいつはそれ自体としての表出型は持たず、しかもオオカミや人の身体の旋律とは独立している。

そして身体としてのオオカミや人間の生殖に便乗して、次々と乗り物を乗り継いで行く。

便利な切符を持った乗客だ、何せヒトがダメでもオオカミの身体の中に、自己を保存できるのだからな。


魔族の本質が何かと問われれば、この、姿形を持たない生体旋律のひとかたまりに集約されるだろう。

”本当のアマロック”は、人間でもオオカミでもない。」

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