第77話 なめらかな嘘

”このサンプルは、どちらで採取されましたか?”


さて、どう答えたものだろう。


クリプトメリアはしばし考えを巡らせた。


①覚えていない

②どこかでたらめな場所を

③事実をそのまま


①は、何も知らぬ素人の目には無価値な石くれをわざわざ拾ってきて、専門家に鑑定まで依頼したと言うのも不自然なら、

価値あるものと見込んで拾ったのなら、その場所を覚えていない、というのも不自然な気がする。


②は諸々丸く収めるには悪くないが、純粋な探求心を無意味に翻弄するのは、さすがに人として心が痛む。



どこか伏せておきたい心情があったが、よくよく考えると、③が一番いいのかもしれない。


国有施設の管理責任者が、敷地内で魔族を野放しにしていたというのは、あまり誉められた話ではないが、まあ気にするほどのこともない。



その場合、アマロックには都合の悪い未来が待ち受けているだろう。

捕獲して場所を聞き出そうとするか、それが無理なら、危険な害獣として駆除したうえで、調査をはじめるか。


以前なら、ファーベルのために、アマロックの存在は必要だった。

しかし今は、アマリリスとヘリアンサスがいる。

いなくなれば悲しむだろうが、所詮お気に入りの野良犬が姿を消したという程度の話だ。

気付かれないように事を進めるのは、そう難しくはない。


悪いな、アマロック。

まぁ、自分で蒔いた種だ。


「あの・・・先生?」


クリプトメリアは軽く微笑んで視線を上げた。


「失礼。


拾った場所を思い出そうとしていたもので。」


言葉は、クリプトメリアが考えていたのとは別のことを伝え、嘘は滑らかに口を出た。


「捕集瓶を沈めておく重しに、たまたま使った石でしてね。

一緒に持って帰って、昔どこかの標本室で見た鉱石に似ているなと、コンボルブルス君に送ってやったんですが、

さて、どこで拾ったものか。

どこかの河口なのは確かなんだが。。。


申し訳ない。

よろしければ明日にでも、心当たりを幾つかご案内しますが?」


「ありがたい、非常に助かります。

誠に申し訳ございません、いきなり押し掛けたうえ、、」


「いやいや。

こちらも見ての通り、絶海の果ての一軒家ですからな。

客人は大歓迎ですとも。


今夜は学際交流も兼ねて、一杯いかがですか。

酒肴しゅこうには、こちらからは山海の幸を、そちらからは本土の土産話を提供頂きましょうか。

あなた方もおつきあい下さいますな?」


クリプトメリアは愛想よく、学生たちに語りかけた。

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