第78話 再び森へ#1

夜もすっかり更けてから、アマリリスは臨海実験所に戻ってきた。


クリプトメリアとともに、母屋の居間で酒盛りをしていた、ペントステモンら来訪者3名は、おびえたような表情で彼女を見ていたが、

本人は至って上機嫌で、鼻唄でも歌い出しそうな雰囲気だった。

3人には目もくれず、少し興奮した様子の早口でクリプトメリアと二言三言かわし、

食堂に入って慌ただしく遅い夕食をすませ、すぐに2階の寝室に駆け上がっていった。



アマロックにせがんでオオカミ達を呼び集めてもらい、サンスポットの元気な姿を見ることができた。


内心、忘れられていたらどうしよう、と思っていた。


子どもの頃、すずかけ村の屋敷で産まれた子犬を、半年くらい世話して、とてもよくアマリリスになつき、

辛い思いをして友達に譲ったのに、2ヶ月ぐらいして様子を見に行ってみると、その子犬はアマリリスのことをまるで覚えていない、ということがあった。


その時点での飼い主である友人の女の子には、これ以上ない愛情表現を見せてじゃれついているのに、

アマリリスに対しては、よそよそしい慇懃いんぎんさで顔色をうかがっているというか、

かつて彼とアマリリスの間にあった交流までも否定されてしまったような、何とも悲しく、残念な気持ちになった。


オオカミは、相手への好悪とは関係なく、ああいう全身をくねらせて見せる愛情や、思慕や服従というものは、持ち合わせていない。

彼ら同士、彼らとアマロックの間に、果たして好意や連帯感のようなものがあるのか、アマリリスには分からなかった。


ただ、サンスポットとの間にある絆については、アマリリスは信じていた。

それは、彼女に向けられるサンスポットの瞳の色合いであったり、アマリリスが微笑みかけたときの、サンスポットのわずかな耳の動きであったり、全身の雰囲気や、匂いのようなものであったりと、

言葉で言い表すことの出来ない、けれど確かにそうあると感じられる繋がりだった。


そして今日はどうやら、サンスポットもアマリリスに会えて喜んでいるように思えたのがとても嬉しくて、

サンスポット以外の、アマリリスに対して無関心で粗野なオオカミたちまでも、どこか彼女との再会を喜んでいるような気がした。


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