第79話 再び森へ#2

翌日から、異界を巡る日課を再開した。


オオカミの帰還に足並みを揃えるように、幻力マーヤーの森は、急速に秋の装いに移りつつあった。

春のみどりが麓から山を昇っていったのとは逆に、森の奥深く、高山へと続く尾根のあたりから始まって、

ダケカンバの黄色を基調に、カエデやナナカマドの緋色、トウヒやツガの緑が、点描の絵画のような色合いで樹海を埋めて行く。


厳しく冷え込んだ朝には、山の上に新雪の薄化粧が見られるようになった。

それも昼頃には消え失せ、ということを何度か繰り返した。


アマリリスは以前にも増して頻繁に森に出掛けるようになり、今ではもう、コンパスの助けも借りず、森のかなり奥深くまで歩き回っていた。

高山の峠から吹き下ろす重く雄大な雲や、

地形の起伏と光線の当たり具合で生まれる森の陰影、琥珀色の輝きと、青黒い日陰の織りなす模様を見上げ、

足元のまだ緑の苔と、その上に散らばる赤い木の実や落ち葉を眺めて過ごした。


森に出掛けたまま、一晩じゅう帰ってこないことも珍しくなかった。

ひょっとすると、アマロックよりも臨海実験所で見かけることが少ないほどだったかも知れない。


ヘリアンサスもとうとう、あまりの頻度にうんざりしたか、労力のわりに効果が薄いと気付いたのか、

姉が帰らないときの日課にしていた、兜岩にランプを上げる作業をやめてしまった。

ファーベルも徐々に、森に入り浸ることについて、アマリリスに小言を言わなくなっていった。


実際この時期に、臨海実験所で誰かと話したような記憶が、アマリリスにはほとんどない。

何日かしてクリプトメリアが、

例の邪魔者3人組が戻ってこない、帰路は船でオロクシュマに送ることになっていたのだが、、

とかなんとか呟いていたのが、ちらりと耳をかすめた程度だった。

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