第331話 オオカミの心#2

夜空を見上げれば――今夜はあいにくの、というかトワトワトでは恒例の闇夜だが、

空気の澄んだ夜には何千もの星が輝き、きっとその幾つかは、この惑星よりもずっと進んだ文明を育んでいるに違いないと思えるのに、

いまだに一つとしてこの惑星に訪問者や、交信すら送ってきたものはいないという。

なぜ私たちはこんなに孤独なのだろう、一体彼らはどこにいるの?


そんな問いかけにも似て、オオカミにまでなったのに、彼らの心が分からない、

触れた感じすらしないというのは、どこか心の芯がうそ寒くなるような事実だった。


・・・きっとあれかな、人間同士でも、初対面で相手の性格とか分からないうちは得体の知れない人に思えたりするのと同じで、

あたしのオオカミ歴がまだ浅いから、みんなのことがまだよく分からないだけかな。


それか、同じことかもしれないけれど、オオカミたちの心の声はとっくに、いつもはっきりあたしに届いているのに、

あたしがそうと気づいていないだけ、とか。


オオカミ語というか、彼らの間でやり取りされるメッセージを、何から読み取ったのか、

耳の動きか、尾の角度か、或いはそういった信号の類ではなく、周囲の状況や経験(!)から彼女が補った推測なのか、

実はアマリリスは、明確に言い表すことが出来なかった。


さらに言えば、オオカミのあいだで交わされるやりとりには、オオカミの姿でいる時には理解できるのに、

人間の言葉にはどうにも翻訳しようがないというものもたくさんあった。


そういったものの中に、オオカミ同士でなら感じられる、かれらの心がひそんで――いや、ありありと現れているのかもしれない。

あたしにそれが感じ取れないのは、、単に慣れの問題?

それとも――


トネリコの大樹のかげから、アマロックがひょっこりと現れた。

アマリリスは驚きに息を呑み、それから満面の笑顔を見せた。


「なぁに、つけてきたの? やらし~~。」


「いいや。

おれの方が先にいたんだよ。」


そうきたか。


言えよ。

ていうか、ということは・・・

あーー、もうどうでもいいや。


「おなかすいたねー、

今日も結局なにも獲れなかったしさ。」


これも意外だったことだが、人間とオオカミの時で、空腹は継承される。

姿形に関係なく、栄養状態の問題だからなのか。

そして、オオカミのほうが飢餓耐性が高いということなのか、人間でいる時のほうが空腹感は激しくなる。

一日腹ペコで森を駆けずり回って、人間に戻ったら卒倒寸前だ。


「同じく。

なんで、何か食わせてもらいに来た。」


またそうやってあんたは恥も知らず、都合の良い時だけ人間を利用しやがって、、、

でもそれは、あたしも一緒か。


「でも、ファーベル多分もう寝ちゃってるよ。

何か残り物でもあるかな、、、あ。」


アマリリスの目が輝いた。


「そうだ。

あたしがなんか作ったげる。

こう見えても料理上手いの、知ってた?」


「いや、あいにく」


「じゃ、覚えておいてね。」


アマロックの腕を取り、オレンジ色の明かりを目指して歩きはじめた。

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