第571話 部分的に重なり合う集合体
否応もなく首座を掛けて争った、2頭のオオカミの間に妥結した取り決めは、
言語を持たない彼らが、いかに高度で柔軟な駆け引きを行いうるかの好例と言える。
それは言語に書き出すなら、大きく以下の4項に集約されるものだった。
アフロジオン、スピカは大型動物、主にはアカシカの狩猟においては、
従来どおりアマロックの配下にあって、オシヨロフの群の一員として参加する。
当然、狩り倒した獲物についての彼らの権利、すなわち相応の取り分が認められる。
この条項により、オシヨロフの群は戦力を、アフロジオンとスピカは2頭では難しかったはずの食料を獲得することができるわけで、
両者にとって利益のある取り決めと言える。
アフロジオンの叛乱の動機であった、スピカとの繁殖は認められる。
これは一般に首領に独占される繁殖機会の割譲であり、
アマロックの側からの譲歩、アフロジオン側の片利と言える。
一方で、繁殖に続く幼獣の養育には、一般には群の構成員総出であたるものだが、
アフロジオンとスピカの子については、オシヨロフの群は養育に協力しない。
これはオシヨロフ群の首領としての、アマロックの権利の保全と行使であり、彼の側の片利である。
そのかわりに、白オオカミ(の姿も持つ魔族の)姉弟が、彼らが必要とする協力者となる。
白オオカミ姉弟は、線引きをするならばオシヨロフ群のメンバーとは認められず、群での狩りにも参加しないが、
その限りにおいて、彼らがオシヨロフの獲物を糧とすることを黙認――ないし公認する。
これは、アフロジオンとスピカに加えて、白オオカミ姉弟の利益となる。
言わば、アフロジオンとスピカのペア、2頭の白オオカミの小群は、アマロックを首領とするオシヨロフ群と緩く連携した下部組織、
あるいは、集合の部分的に重なり合う2つの円のようなものだと言えた。
いずれアフロジオンとスピカの仔が育った時、彼らとオシヨロフ群の関係はどうなるのか、
風来坊の多変態魔族でもあるアーニャとワーニャがいつまでアフロジオンとスピカの元に留まるかは未知数だが、
未来とはすべからく未知数であって、それが明らかになる都度考えればいいことだった。
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