第355話 死屍累望

体を震わせてむせび泣くアマリリスに、マフタルは足音を潜めて近づき、肩にそっと手を掛けた。


『なにょっ、、』


大声を上げかけたアマリリスの口に慌てて手のひらをあてがい、人差し指を唇に立てる動作で静粛を求める。

苛立ちと怪訝の眼で睨み返してくるアマリリスに、マフタルは無言で前方の盆地を指し示した。

その先を追って、アマリリスははっと息を呑んだ。


平地の中に差し込む周囲の山の尾根、平地を海だとすれば岬にあたる場所のひとつに、ケシ粒のような黒い点々が群れていた。


相当の距離があって、細かな姿形はわからず、地面にこぼれたパンくずに群がる黒蟻のようにうごめいて見えるだけだが、

この距離から肉眼で見分けられるということは、人間くらいの大きさはあるはずだ。


やがて眼が慣れてきて、その黒い点々が、同じくらいの大きさの白い粒を次々に運んできては、尾根の崖から下に投げ落とす動作を繰り返していることが分かった。


そして多数の小さな黒い点々に混じって、目について大きな、といってもやはり黒いケシ粒にしか見えないのだが、

他のものが小さなヒメアリだとすれば、そこに種族の違うより大型の蟻が迷い込んだような異様さで動き回っているのも気になる。


何が行われているかは想像するしかないのだが、不吉な眺めだった。



”行こう”


マフタルに促され、アマリリスはゆっくりと後ずさった。

操縦者を待っていた古代サイが再始動し、その巨体の割にはほとんど足音も立てずに方向転換して歩き去っていった。


彼らは気づかなかったし、目に止めたとしても気にしなかったに違いない。

太古の火道が残った岩塔の一つに、大きなワタリガラスが一羽、瞬きもしない漆黒の眸で、赤銅の巨獣と、小さな獣衣の連れ合いを見送っていた。


やがて、彼らの姿が見えなくなると、黒鴉は天を覆うようにその翼を広げ、平原の方へと飛び去っていった。

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