第139話 星も月もない闇夜#2

アマリリスはしばらく無言で、ほどいた長い髪を、ターバンで挟んで水気をとる仕草をしていた。

やがて、おずおずと声をかけた。


「ファーベルぅ。。。」


「!!はっ、はい?」


「今日はごめんね。。。まだ、怒ってる?」


「ぅ、ううん。

大丈夫。


怒ってないよ。。。」


途端にアマリリスは晴れやかな、にんまりした笑顔に変わった。


「よかった。

ファーベル、だぁいすき。」


ファーベルの細い首に腕を絡め、アマリリスは彼女の頬にキスした。

ファーベルは赤くなって、困ったような顔をしていた。

どこか、泣き出しそうな表情のようにも見えた。


ともあれこれで、仲直りが成立したのだ。

ヘリアンサスはほっと胸を撫で下ろした。


「じゃっ、あたし先に寝るね。」


「うん。おやすみ。」


「おやすみ~」


すっかり元気になって、アマリリスは二階に上がっていった。



しばらく沈黙の間があって、ヘリアンサスは口を開いた。


「ありがとね、ファーベル。」


びっくりした顔で、ファーベルが視線を上げた。

一呼吸あって、今度はファーベルにも満面の笑みが浮かんできた。


「どおいたしまして。

疲れたね、お茶にしよっか。」


「ぼくがやるよ、座ってて。」



ずっと後になって、ヘリアンサスは思い出す。


カラカシスがまだ平和だった頃から、彼の姉は、魅力的で愛すべき、しかし時として、ひどく人を怒らせることもある問題児だった。


本人に悪気はないのだが、とにかく自分が一番で、

少しでも気に入らないことがあると、 多々ある自分の落ち度は棚にあげ、ぼろくそに言う。

その際相手への配慮は一切なし。


そんなあまり感心しない傾向のあるアマリリスが、一度も悪く言わなかったのが、後にも先にもこのファーベル一人だった。

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