第373話 紅蓮 #2

鎧皮と肉が飛び散り、体毛が燃え上がる。

火焔地獄と化した箱船から逃げ出そうと一斉に飛び出した小鳥や動物たちも、紅蓮の炎に包まれて燃え落ちていった。


爆弾を抱えた突撃兵は跡形もなく消し飛び、両前足から胸にかけてひどい損壊を受けた古代サイは、もはやその巨体を支える術もなく、ツンドラの苔と砂礫の混じる大地に頭から突っ込んで動かなくなった。



なおも黒煙を上げて燃えくすぶる巨獣の残骸を、巨躯兵の間から前に出た兵卒の一団が取り囲む。

隆椎の裂け目から、よろめく足取りでマフタルが出てきて兵士たちに取り押さえられた。

意識は朦朧としていたが、爆破点から離れたサイの頸部に居たために、難を逃れたようだ。


一方で、脇腹に開いた大穴の中からは、ヴァルキュリアの手で、ボロくずのようになったバヒーバの亡骸が引き出された。

そして―――



割れ鐘の鳴るような頭痛の中で、アマリリスは不快そうに薄目を開いた。

白装束の人形のような顔立ちの女たちが、彼女に三叉戟を向けて並び立ち、その向こうから、マフタルが悲しげな目でこちらを見ている。


煤で真っ黒に汚れ、手足に軽いやけどを負ったが、

あれほどの爆発のすぐそばに居ながらその程度で済んだのは、単に幸運なだけではなかった。

自分の体が乗っているものを見て、アマリリスは息が詰まった。


今も彼女を優しく抱擁するように回されたバハールシタの腕は力なく、血まみれだった。

両肩は黒く焼けただれ、背には折れたサイの肋骨が刺さっていた。

彼が身を挺してアマリリスを爆発の衝撃と熱から護り、その一切を我が身に受けたのだ。


「なんで・・・!」


アマリリスは掠れた声を振り絞って叫んだ。


「どうして、こんなことしたの!

あたしなんかに・・・!!!」


虫の息の下で、バハールシタには意識があり、優しい眼差しでアマリリスを見上げ、意外にしっかりした声で言った。


「君が、美しかったから。。」


溢れ落ちるアマリリスの涙を拭おうと、バハールシタはその手を弱々しく掲げさえした。


『泣かないで、リル。

きみには、まだ行くところが。。。』


そこで事切れ、少年は眠るように息を引き取った。

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