第374話 遠い夏の装い
マフタルと
地面に横たわるバハールシタの傍らにひざまづくと、マフタルは弔いをするかのように、その胸の上に両手をかざした。
バハールシタの体を覆う黒い衣はその誘いに応じて、無数の小さな蠕虫の群のように動いてバハールシタの胸に集まり、マフタルの手の中に吸い込まれていった。
裸体となって横たわる同胞の亡骸を後に残して、マフタルはアマリリスのところに戻ってきた。
その手の中には、鶏卵よりも一回り大きな、黒い繭が収まっていた。
「これを、ジェーブシカ」
「・・・なに?」
バハールシタの死に対する責任の思いと、死者に対する心ない仕打ちへの怒りに苦しみ、外部を撥ねつけるように固く腕組みをしている、
同時にそれによって裸の胸を隠しているアマリリスに、マフタルは声を落として囁いた。
「さすがにその格好のままじゃ、、
これで服をつくるから、腕を広げて。
あ、なるべく見ないようにするし。」
「・・・」
水鳥の羽毛のような艷やかな黒の繭には、バハールシタの血液が結晶したような、赤く光る繊維がわずかに混じっていた。
しかしそれを拒めば、でアマリリスの身を覆うものは、腰までの丈の髪の毛しかない。
それでも躊躇するアマリリスに、マフタルはさらに声を落とし、悲しみの感情すら感じられる様子で呟いた。
「そうしてくれたら、きっとバハールシタも喜ぶよ。
ヤツは、君に恋していたから。」
アマリリスは腕組みを解き、マフタルの掌と黒い繭の上に両手を重ねた。
繭は再び形を変え、アマリリスの指の間から溢れ出て腕を這い上がってきた。
柔らかな土のような肌触りの網樹の繊維は、アマリリスの身を覆うにつれ色彩を変え、
漆黒から、夏の
その中で襟から胸の中央に鮮やかな赤が浮かび上がり、赤い首飾りをかけたようにも見えた。
全体にスパッツと丈の短いチュニックを合わせたようなデザインは、まだ平和だった頃、ウィスタリアの夏の装いによく似ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます