第34話 森の沈黙・草木の大騒ぎ

このまま成るがままに任せると決めてしまったら、何も考えることがなくなり、

やがてとりとめもない不安や迷いも、体を侵す寒さや湿気の苦痛も、次第に薄らいでいった。


アマリリスはもう何も喋らず、この森と同じように、灰色の空から降り注ぐ雨に打たれ、湖面を渡ってくる風に吹かれていた。

防水布に落ちて弾ける雨粒の音、通りすぎる気流の感覚だけを感じながら。



不用心にも、眠ってしまっていたようだ。

はっと顔を上げると、湖面の対岸の小高い丘の上、濃い緑の草むらが、ガサガサと激しく動いている。

風、、ではない。

一面に丈の高い草が密生する中で、まるで誰か棒を振り回して草をなぎ倒そうとしているかのように、何かが必死に暴れまわっている。


草木の大騒ぎは右に行ったり左に行ったりしながら丘を下り、エゾニュウとイタドリの茂みの中から、立派な角を生やした、大きなアカシカが飛び出してきた。


アカシカは角に草の切れっぱしをぶら下げたまま一直線に突っ走り、低い土手になった湖岸から高々とジャンプして、湖に飛び込んだ。

水しぶきが上がり、けたたましい水音があたりに響き渡る。


続いて草むらの中から、わらわらと数頭のオオカミが走り出てきた。

アマロック、サンスポット、ベガ、デネブ、、、


シカが飛び込んだ岸のところで短いやりとりがあってから、3兄弟のうちの2頭が湖に飛び込み、先を行く獲物を追い始めた。

アマロックとサンスポットは湖岸を右へ、アフロジオンともう1頭は左へ。

湖を渡ったところで挟み撃ちにする気だ。

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