第377話 荒野の諦念
朦朧とした色彩の荒野に浮き立つ白の一隊と、そこに混じったそれぞれに由縁のある装いの3名は黙々と歩き続けた。
足裏に感じるツンドラの苔や草、地衣類の感触は昨日と変わらないのに、心残りを置き去りにして追い立てられる足取りはひどく重い。
そんなことは生涯に一度も感じないであろう魔族の軍をアマリリスは憎々しく眺めた。
身にまとう外骨格は、
全体的に丸味を帯びたフォルムの胸甲に肩当て、草摺、手甲、脛甲といった装備は、
何もかもが風雨に傷み、くすんだツンドラの光景の中では奇妙なほどのなめらかなオフホワイトで際立っている。
象のような長い鼻を持ち、体つきはラクダに似た奇妙な動物に乗っている騎兵は、ヘルメット型の兜のバイザーを下ろしているが、
歩兵は、戦闘が終わった後はバイザーを上げ、素顔を晒していた。
全く同じ顔で、微動だにせず進行方向に据えられたガラスの瞳。
彼女たちが何の目的で自分たちを襲い、捕らえたのかは分からないが、
同じ魔族でも単独行動で、人間の目には理解不能な気まぐれと映る振る舞いが多いアマロックとは違って、その行動には明らかに、何らかの統一された意志と目的がある。
”こいつら、あたしたちをどうするつもりだろう?”
アマリリスはひそひそ声でマフタルに問いかけた。
そうでもしていないと、気分の重さに耐えられなくなりそうだった。
”さぁ、、エサ?”
”だからやめてってば、そういうの・・・”
反論してみても、声にはまるで力が入らない。
”すぐに殺すつもりはないんじゃないかな?
だったらあの場でやってるだろうし、君のオオカミたちも生かしたまま運んでるし。”
「ないんじゃないかな?じゃなくてはっきりしてよっ、そういう大事なことは。」
文句をつけながらも、アマリリスはマフタルの意外に冷静な洞察に感心してもいた。
やはり魔族、こういうところはアマロックに似ている。
「ていうか、あの
地下から湧き出た悪夢の怪物は、アマリリスが意識を取り戻したときには、出現と同様の唐突さで跡形もなく消えていた。
「あれも
「嘘言うな。大っきさとか、骨格からして全然違うじゃんかよ。」
「育ちざかりなのと、いつもお腹いっぱいエサをもらってあんなに大きくなるらしいよ。
うらやます。」
「げっ、やめてよ、あんたマジ趣味わっる!
あたしだったら死んでも勘弁!!!」
騒ぎたてるアマリリスに、例の長身の女だけが、あからさまな不快を見せて睨みつけてきた。
その目力は相当なもので、
さっきは無我夢中で突っかかっていったものの、激怒の気迫がなくなったアマリリスは、それに対して睨み返したり無視して騒ぎ続けることができるほど肝が座っているわけではなかった。
ヒソヒソ声にトーンを戻してマフタルに尋ねた。
「あのおばさん誰? 人間だよね。
なんで魔族と一緒にいるわけ?」
「君に訊かれるのも、彼女は名誉な話だと思うけど。。
キリエラ人だと思うよ。
前からこの辺に住んでたけど、山が火を噴いて住処がなくなって、
「・・・キリエラ人って、元祖変身人間っていうあれ?」
「うん。生身の人間がここで生きてはいけないからね。
元祖かどうかはわからないけど。」
「あたしたちも傭兵にされんのかしら。。
ヤダな、、何させられるんだろ。」
「キミは大丈夫だと思うよ、美しいお
オオカミの形代は失っちゃったから、取り柄は美しさだけだし。」
”ひっど !”
しかしその抗議は、声にならなかった。
”おわったな”
アマリリスは深いため息をついた。
オオカミの身体を失った今、アマリリスは相対的に周囲の状況をほとんど知覚することが出来ず、
ツンドラと火山のとりとめもない光景が目に入るに過ぎない。
どこからともなく舞い降りてくる知見や、空間的・時間的に
それは不安というよりは、諦念に近い見通しの暗さとなって彼女の心に載っていた。
本当にこのムカつく女戦士どもの食料にされるのか、あるいはよくてドレイか。
自らの運命に対する暗い予感は、さほどアマリリスの心を動かさなかった。
一方でもうアマロックに会えないかもしれないという考えは、小さいけれど鋭い傷の痛みとなって彼女の心を刺した。
”そんなこと、、許さない!”
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