第357話 蓋乗#2

巨獣の足元で少年たちが何か話して、2人はサイの体内に戻り、1人(バヒーバかバハールシタのどちらか)がするするとサイの体を登ってきた。


そしてアマリリスが鎮座しているサイの背中には上がらず、肩のところに、

ちょうど、人混みの街路を進む乗合馬車の御者助手がよくやるように横に取り付いた。


アマリリスを見守っているつもりなのか、監視されているような感じもしてあまり気分がよくない。

文句をつけようか考えていたら、古代サイはゆらゆらと歩きはじめた。


馬に乗るときの、人馬が歩行を共有する感覚とも違い、巨獣の背の騎乗は、堅固で不動であることをやめた大地の上に座っているような感じがする。

一方で巨獣ならではの安定感と言おうか、地面の凹凸も、地面とサイの四肢が伝え合う力も、その巨体の重量に穏やかに打ち消されて、なかなか乗り心地はいい。


黙っていたらまたろくでもないことを考え始めて、自分で辛くなるのを見越して、アマリリスは体半分低いところに居る少年に話しかけた。


「あんたが外にいて大丈夫なの?

マフタルは3人で動かしてる的なこと言ってたけど」


話しかけてくるとは予想していなかったらしく、少年は耳朶をはためかせ、びっくりした顔で振り向いた。


「・・このデカブツのこと?」


「そ。」


「歩かせるのは一人なんだよ。

あとの二人は、周囲の見張りと、入居者さんのお世話とかしてる。」


「へー、3人で脚1本づつとか動かすのかと思ってたよ。」


「1本分足らないじゃん。

てかそれかえって難易度高いよ。」


「それもそだねー。」


2人でへへへ、と笑った。

こういう感じ、相当久しぶり。


「決まった係とかあるわけ?」


「・・誰が歩かせて、誰が見張りで、みたいなこと?」


「そう、そゆこと。」


「だいたい。

いつもはマフタルが見て、聞いて、歩かせて、

バヒーバが、見えるように『声の目』を操作してやって、、あ、飛ぶ鳥さんたちのためでもあるんだけど。

僕が入居者さんの話をいろいろ聞いて、あとたまにだけど、敵が襲ってきたらヤマアラシのアレでやっつける、とか。」


ってことはこいつがバハールシタ。

獣の耳朶についた、白いスペード型の斑と共に、アマリリスはその名前を耳に刻み込んだ。


「いくつ?」


「・・?」


「あんたの年はいくつ、バハールシタ。」


「ああ、僕のことか。

15歳。ことし16。」


ってことはほぼタメか、ヘリアンサスと同じぐらいかと思ったけど。

何だかかわいいかも。


「どこから来たの? ずっとここにいるわけじゃないよね。」


「どこから・・あっちの方。」


バハールシタは今なお白い噴煙を上げる山を指した。

この巨獣が火山の爆発で誕生したのでなければ、山の向こうからやってきたということだろう。

そしてその方角が、この不思議な大型客船の由来とさして関係があるわけでもないだろうけど。


「あたしもだ。偶然だね。

あたしの故郷はあの山のずっとずっと向こう、んでだいぶ南。

一年中だいたい晴れてて、夏はすごい暑い。こことは別の世界みたい。

いい所だったんだけどねー、、


そこから船に乗って、汽車に乗って、いつから乗ってるんだろうってくらい乗って、

また船に乗って、トワトワトで途中下車、って感じ。」


バハールシタに人間の船や汽車の理解があるかわからなかったが、黙って聞いていた。


「ぼくらはずっと歩いてきた

あの山よりも遠い、氷の海の岸や、夜がずっと続く森とか、とても大きな太い樹ばかり生えてる森とか」


「そっか、遠くから来たんだね。

ひょっとしたらウィスタリアより遠く?

でもそんな場所ってあるのかな。

いつからこのデカブツに乗ってるの?」


「いつから・・いつだろう、最初から。」


「ずっと3人で? あんたたちは兄弟なの?」


「ううん、わかんない。

前はチャコたんが居て、このデカブツを動かしてくれてたんだけど、動かなくなっちゃって、それからはマフタルと、バヒーバと、僕たちでここまで来たんだ。」


「そのチャコたんってのがあんたたちのお父さん?お母さんかな。」


「たぶん違う。

チャコール色のキツネだったから。」

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