第541話 焚口扉の妖女

むわっとする蒸気の煙をあげる煙突から、赤々と燃えるペチカの中へ、

ビサウリューク[暫定]と折り重なって転げ落ちていったアマリリスは、思わず笑い声をあげた。


ちょっと待ってて、とビサウリューク[暫定]を制し、

ペチカの内側から焚口扉ザスローンカをそっと開いて外、つまり臨海実験所の室内を覗った。

こんなところをファーベルやヘリアンに見つかったらコトだ。


幸い室内には誰もおらず、アマリリスは四つん這いでペチカから出ると、ウェージマ妖女の衣装を脱ぎ捨てて、いつもの服装に着替えた。

これで一分前まで、あたしが臼と杵に乗って空を飛び回っていたとは誰も思うまい。


よしよし、とソファに腰を下ろしたところで我に返った。



当然、ペチカに火なんて入っておらず、壁や天井とおなじく、真っ白な霜に覆われている。

アマリリスは寝袋に収まったまま、極夜の暗がりの中を舞い落ちてくる雪片を見上げていた。


”はぁー、、、


凍てつく室内に白い息を吐き出して、もぞもぞと寝返りをうった。

さすがにこれはアウトでしょ、、、一昔前ならお嫁にいけないワ、っていうヤツ。

この次、どんな顔してアマロックに会えばいいのやら。


”だーいじょうぶ、だいじょうぶ。

オオカミになって会えばいいんだよっ。”


「だからって、ずっとってわけには、、

って、え・・・?」


「こんにちはっ!」


アマリリスは呆然と、スネグルシュカの淡青いろの瞳を見つめた。

なんだろ・・・まだ、夢の中ってこと??


「むふん。

だったらもいっかい、ビサウリューク[暫定]喚んじゃう?」


「・・・バカ。

勘弁して。」


スピリチュアル神秘との会話。。。

スネグルシュカの言う通り、あたしは”ぼっちの寂しさでアタマがおかしく”なってるのかもしれない。

愛する人と一緒に居ることを選んだばかりに。

哀れなもんだ。


「・・・王子さまは見つかったの?」


「うんばっちりーー👌

王子さま、アリョーヌシカを好き好き大好きーー、まではうまくいったよ。」


「そう。」


あれ、その次はなんだっけ?

ていうか、どうなったらこのとりとめもない物語はゴールインするんだろう。

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