第542話 喪われたものたち#1

やっと日が昇った幻力マーヤーの森では、

この日、アーニャまで姿を消していた。


誰も居なくなった岩のくぼみの隠れ処の前で、アマリリスは今度こそひどく落胆した。

せっかくヘラジカだって倒したっていうのに、異界はどうしてこうまでも無慈悲なのだろう。


こんな時ぐらいはいいよね!?恋人[?]なんだから、甘えたっていいんだよね???と、アマロックに愚痴ろうと思った。

積もり積もった思いをキツい言葉に乗せて思い切りぶつけてやるつもりだったのに、

どういうわけか、それこそウェージマ妖女の呪いに縛られでもしたように、

今日に限ってアマリリスの舌は満足に動かず、アマロックの前で二言三言、独り言みたいにぼそぼそ呟いただけだった。


それでも諦めきれないアマリリスは、アマロックを引っ立てて2頭の探索に、あてもない彷徨へと出向いた。

アマロックはアマリリスにせがまれ急き立てられるまま、淡々とした足取りで雪深い冬の森を進むのだが、

彼女の焦りや心配といったものには、これっぱかしも感化される様子がなかった。


去年の冬、サンスポットと一緒に歩いたな、やっぱりヤキモキしながら、あの時はオシヨロフの群の窮乏に対して。

みんなが飢えるのが見てて辛くて、苦しかった記憶があるけど、”過ぎたこと”って、もう、記憶でしかないのよね。。


あの時はアマロックと仲違いして、ってかあたしが勝手に腹立てて別行動にしてたけど、今年はいっしょ(❤)

・・・ファーベルが居なくなって、アマロックが臨海実験所に来なくなっちゃったから、

人間の姿のアマロックと一緒に居られるのはこういう時くらい。

、用件があればアマロックと一緒に居られるんだけど。。。


チラり、とアマロックの横顔を見やった。

ワガママ放題のカノジョにつきあわされてウンザリする、でもなく、いい加減にしろと怒るでもなく。

魔族の金色の瞳は、彼に目線を送る人間の娘を見てすらいなかった。

こんな調子じゃ、いちゃラブもケンカもできやしねぇ。


こうして考えると、

いつだって自分のコトばっかり、なのはむしろあたしの方なのかも知れない。

アマロックはこうして、全くもって興味の欠片もないアーニャの捜索なんかに、文句も言わず付き合ってくれてるわけで、考えようによっては優しい。

あたしは、”自分が”気になっちゃうからアーニャ/ワーニャを気にかけて、

”自分が”居ても立っても居られないから、アマロックをしょっぴいて行方探しして、

でもそんなことにぜーーんぜん関心もない、っていうアマロックの優しさ。

無関心=優しさ、っていう異界の構図。。。



久々のかんじき強行軍に疲労困憊した足を止め、

雪雲の天を仰いで深いため息をついた。


あーあ、何やってんだろ。

ワーニャもアーニャも、とっくに・やっぱり?アマロックに殺されちゃったかも知れないのに。

そのアマロックに手伝ってもらって、卑屈になってりゃ世話ないわ。



オシヨロフのオオカミたちと行きあった。

サンスポットに、ベガ・デネブ・アルタイルの3兄弟が、アマリリスの周りに集まってくる。

アフロジオンとスピカは”また”2頭で別行動なのか、姿が見えない。

・・・アオハルしやがって。


仲間に、恋人[?]に囲まれていながら、アマリリスの心は慰められなかった。

世界じゅうで誰よりも、無人島にひとりぼっちで暮らす少女より孤独なんじゃないかと思った。


一度は振り切ったつもりだった、人間として異界に生きる苦しさがグッと頭をもたげてくる。

人間相手なら、この寂しさや不安はきっと分かってもらえると思うのに、オオカミや魔族にはムリだと感じる。

彼らには、他者の心に共感する心が感じられない――

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