第348話 歩きにくいったら
「xs,xxyz/xzz.」
歩哨が何か言ってる。
逆に言えば少ししか解らず、不足は身振り手振りで補うことになる。
話が終わって、
{獣たちを上の方に上げろ、って言ってるみたい。}
それだけの用件にしてはずいぶん長く話し込んでいたのと、今移動する理由がわからない。
{ホントに?
だってあいつ、みるからに動く気ないっしょ?}
斜面の下の方からこちらを見上げている
{ま、やってみて違えばなにか言ってくるでしょ。}
{またそれぇ? ユク、適当すぎ。}
小さな問題は問題としない方針は、彼女の生来の性格だったが、群族を率いる長としての資質でもあった。
重要なのは、小さな問題に潜む重大な問題の予兆を見逃さないことであり、
その点に関しては、彼女自身はよくやっているつもりだったが、過去にはいくつかの失敗もあった。
そそっかしいくせに心配性なところもあり、問題の存在自体をなかなか許せない、トヌペカはどうなのだろう。
族長を継いだ後、うまくやれるだろうか。
まぁ率いるべき群族が残っていればの話だけれど、と、族長にあるまじき不謹慎なことを考えてしまった自分を、女は戒めた。
トヌペカの危惧に反して、
拍子呼を鳴らして斜面を上がっていく二人のあとを、歩哨は黙ってついてきた。
トヌペカはなおも不満をこぼし続けた。
{歩きにくいったらない。
こんなとこ、人間が歩く場所じゃない。}
そこは、かろうじて崖ではないものの、足を滑らせたら致命的な滑落に繋がりかねない急斜面であり、
表層の草とその根のマットの下の、粗い礫を多く含む土壌は崩れやすく、そういう事故を誘発する危険が多分にあった。
彼女たちの庇護獣の身体であればこういう場所も安全に通行できるのだが、
歩哨の許可なしに変身することは禁じられていた。
{大体なんであいつらの許可をもらう必要があるのかって話よ。
あたしたちの身体なのに。}
{そういうところ。}
{え?}
{行きましょう。
どっちみち今は呼子を鳴らさなきゃならないし、ユキヒツジになるのは無理よ。}
霧雨混じりの風が吹きつけ、白い雲の筋がたなびく尾根の先へと、彼らは渡っていった。
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