第224話 相も変わらぬ雪空が日常となり

オシヨロフ岬の肩、幻力マーヤーの森と、兜岩の方角へと分かれる台地に出た。


森の樹冠にはうっすらと氷の靄がかかり、その奥に何か秘密を隠して誘うような雰囲気がする。

海の方に目をやれば、外海は水平線まで流氷に埋め尽くされ、

鈍重な雪雲の底と氷の海の間に聳える兜岩は、純白の雪を吹き付けられ、美しくも峻厳な峯と化している。

その足元を、オシヨロフの内湾に入ってくるクリプトメリアとヘリアンサスのカヤックは、まるでけし粒のように小さくはかない。


さて、どうしよう。

昨日、一昨日と朝から吹雪いて実験所にこもりきりで、その前も何やかや、一週間以上アマロックと会っていない。

一方で入り江のほうも気になる。


結局、誘惑に負けたような形で、アマリリスは岬の先端へと続く雪の稜線に足を向けた。



一時のように、必死の思いで森に向かうことはもうなかった。


あのあとも、オシヨロフの森のオオカミたちは、期間も深刻さも様々な、何度かの窮乏に見舞われていた。

でもそこは異界の事情、オオカミとアカシカとヘラジカの間でのこと。

なるようにしかならない。

見守る程度に様子を探りはしても、吹雪の中をいて会いに行ったり、一緒になって獲物を探したりは、もうしなかった。


一方では、以前のように、むやみに冬の森を恐れることもなくなっていた。

ファーベルから寝袋(と、二泊以上無断外泊のお墨付き)を与えられ、アマロックの見よう見まねで、雪洞の作り方を覚えた。

そうすると、行動範囲を大幅に制限していた雪嵐ヴェーチェルへの恐怖が薄まり、今では無雪期とそう変わらない感覚で、幻力マーヤーの森を歩き回ることが出来るようになっていた。

もはやアマリリスにとって冬は、苦痛や忍耐を要求される特別な季節ではなかった。


秋の終わりから冬の初めのころ、去って行く夏が恋しくて、再び春が訪れる日を、指折り数えるようにして思い描いていた。

カラカシスでなら、それも冬の過ごし方としてアリだった。

けれどトワトワトの冬はあまりにも長い。


今では、それほど痛切に春を待ち望む気持ちはなくなっていた。

あとどれくらいすれば雪解けが始まるのか、今は冬の何分目くらいにいるのか、

そういったことも、今ではあまり重要ではなかった。

相も変わらぬ雪空が日常となり、それが晴れる日のことを考えなくても、過ごすことが出来るようになったからである。


一度見かけたきり、すっかり忘れかけていた人魚の魔族を再び見つけたのは、そんな時節だった。

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