オシヨロフの浜へ
第481話 非同期電文信号
霧に閉ざされた湾内に、ウミネコの声がこだましていた。
暦は9月の第4週を指していたが、ここのところ朝晩の冷え込みは厳しく、居間のペチカには火が入っていた。
台所のオーブンの前には、香ばしく焼き上がったアップルパイが湯気を立てている。
しかし、ヘリアンサスもファーベルもどこかに出掛けているのか、姿が見えなかった。
臨海実験所の玄関を入って右手の小部屋、
この絶海の一軒家と人間世界を繋ぐか細い糸、旧式の無線通信機が置かれてあった。
モールス信号機として使用することもできるが、その用途ではかれこれ1年以上利用されておらず、
通信機は日々黙々と、実験棟脇の潮位計が収集したデータを、「本国」、マグノリア大学の電算センターへと送り続けていた。
おそらくこの使われ方も、クリプトメリアの着任以来は初めてのことだったろう。
通信機は自己宛の非同期電文を通知する信号を受信し、テレタイプ端末の自動復号設定での作動を開始した。
通信機に接続されたタイプライターが、ロール紙いっぱいにラフレシア語のアルファベットを打ち出していった。
差出人は、マグノリア大学事務局長とあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます