第482話 惑星照の月

震えるかのようにか細く白々と輝く三日月は、

その暗部もうっすらと、仄暗く浮かび上がって見えていた。


天空から地上の人間を見下ろしてわらう口だけの怪物とも、

光の睫毛がふちどる瞼を閉じた、コケティッシュに戯画化された女の横顔とも見える。

ちょうど涙の雫のように、その傍らで銀の星が光っていた。



アマリリスはオオカミの毛皮を掻き寄せ、ほっと息を吐いた。

白くけぶるその息遣いは穏やかだった。

前途はまだまだ、オシヨロフまで、果てしない隆起と沈降を繰り返す大地の海原が広がっている。

でも、文字通り”峠”は越した、この先の道のりが脅威となることはおそらくないだろう。


背後に聳える山は、星空を切り取る闇となってその偉容を示してはいたが、もはや過ぎ去ったものだった。

一方で、とんだ珍事に巻き込まれたこの夏のワタリの、山々からの手土産のように、オシヨロフの群にはちょっとした変化が起きていた。



噴火による足止めに、ベラキュリア城砦での拘束と、この夏のワタリは長引き、

オシヨロフのオオカミ、そしてアカシカたちがトワトワト脊梁山脈を越えたのは、最高地点の峠が通行可能なギリギリの時期に差し掛かっていた。

危険な踏破ではあったが、そこで踏みとどまっていては生存に繋がる道はない。

胸まで潜る積雪に、視界の一面が白一色の吹雪の尾根を、食うものも食われるものも等しく、黙々と通過していった。


そして、やっとの思いで雪嵐から脱出してみると、オオカミたちの仲間は8頭に増えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る