第483話 流れ星のスピカ
ワタリの途中に誰かがはぐれてメンバーが減ることはあっても、
増えるというのは珍しい、とアマロックまでも何やら感心したように言っていた。
アマリリスがスピカと名付けたこの雌オオカミも、自分の群からはぐれてしまったのか、
あるいは、何らかの事情があって離脱せざるを得なかったのか。
あんな雪と氷と岩だらけの山でオオカミが単身で生きていけるわけもなく、
途方に暮れていたところに通りかかったオシヨロフのワタリについて来てしまったというわけだ。
流れ者のオオカミがよその群に加わろうとして、受け入れてもらえる見込は高くはない。
警戒から追い返されるか、悪くすれば殺されてしまうことも少なくない。
しかし、オシヨロフの群は雄が多く、雌のスピカに対する警戒は薄かったこと、
リーダーのアマロックが黙認の姿勢を示したことから、メンバーも彼女を攻撃するようなことはなかった。
一方アマリリスは、まさか同性だからという理由で(それも獣と)張り合うようなつもりはなかったが、この新参者のことがすこし気がかりだった。
元々が存外人見知りするたちなのに加え、
銀色のきめ細かな毛並みという、オオカミのときの自分に似たところのある外見にどこか不吉なものを感じた。
若くはないというか、子どもを生み育てている年齢の個体で、その点はあのファべ子の母を連想させる。
そういう雌が独りで、あんなところで一体何をしていたんだろう? というのも奇妙に思える点だった。
「ホントのオオカミ??
魔族が化けてるってことないの?」
思いつきで口にしたその薄気味悪い考えも、異界においてはあながち突拍子もないとは言い切れなかった。
「可能性はあるね。」
「可能性は、っていやいや。
アマロックにもわからないものなの?」
「わからんねぇ。
何しろ見たまんまにオオカミだからな。
人間にはわかるものなのかい?」
それを言われると、ぐうの音も出なかった。
スピカは、遠慮や警戒を
オシヨロフのオオカミたちに対して、
ただ、以前からこの群にいた者のように、これからも群に居続ける者のように振る舞っていた。
スピカに限らず、そしてアマリリスがオオカミの姿になっている時であっても、オオカミの心はわからない。
ただ、人間の目で眺めるスピカには、彼女の孤独の事情や、それによって負った苦悩といったものを想像してしまうわけで、
何となくの気味悪さで追い払ったりするのは、その後のスピカの暗い運命を考えるまでもなく、良心に忍びなかった。
まぁ、多分違う。(魔族じゃなくて)ただのオオカミのはずっ!
本当は、オオカミの姿でいる時に身体の奥深くからこみ上げてくる警告にも気づかなかったことにして、
アマリリスは新しい仲間を受け入れた。
相変わらずアマリリスは狩りがへたくそで、物の役に立たず、一方のスピカはなかなか手際が良かった。
オシヨロフの群は、その食い扶持を補って余りある構成員を手に入れたと言えそうだった。
1週間ぶりに倒した獲物のアカシカを、まだこの時、スピカは端の方で静かに貪っていた。
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