第487話 アイツが聞く耳持つかしら

クリプトメリア博士との話が済んで、これで全部片付いたと思っていたら、いちばん厄介な抵抗勢力が残っていた。

ヘリアンサス。


アマリリスの中ではてっきり、何も言わずにファーベルにくっついてトワトワトを去っていくはずの存在だった弟が、

強硬に反対を主張し、アマリリスの意志が変わらないと見るや、今度は自分もトワトワトに残ると言い出した。


困った話だった。

そしていくらなだめようが、脅そうが、説得の言葉自体を頑として受けつけない。


なんなのよもぅ、そのガンコさ。。。

一体誰に似たんだか。


「あーーもぅ、あんたさぁ。。」


疲れはてて、もう好きにしたら、と言うつもりだったのに、口から出てきたのは自分でも思いがけない言葉だった。


「アマロックに張り合ったって、意味ないと思うよ。。。」


言ったアマリリス自身がよく咀嚼できなかったその語句に、ヘリアンサスの方が素早く反応して、その目に炎のような怒りが広がった。


「あんなケダモノ、関係ないって言ってるだろ!」


・・・いや、言ってないよね?



そのままどこかに飛び出していったヘリアンサスに取り残され、

困惑を抱えて晩秋の夜の渚を歩いていたアマリリスは、イルメンスルトネリコの前で”あんなケダモノ”に会った。

お互い服を着ている状態で会うのは久しぶりで、なんだか仮装劇にでも出演しているようなおかしな気分だった。


いつものキスをゆっくりと堪能してから、

アマリリスは臨海実験所を取り巻く変化のことをアマロックに話した。


クリプトメリアや、ファーベルが居なくなること。

もちろん、自分はここに残ること。

そうしたら、ヘリアンサスが自分も残ると言ってきかず、途方に暮れていること。


アマロックは注意深くアマリリスの話を聴いてから、訊ねた。


「それで、おれが彼を説得してしまって構わないのか」


「・・・は?アマロックが??」


そう言ってくれるのは有難いけど、アイツが聞く耳持つかしら。。。

そもそもどこ行ったかわからないんだけど、、

しかし魔族は、造作も無いと、入り江の岩場に向かって歩き出した。


果たして、アマロックが迷いもなく足を向けた先、

兜岩の岩峰の頂に、暖かな色合いの灯りが見えてきた。

それは、アマリリスが幻力マーヤーの森の彷徨をはじめてからしばらくの間、

夜になっても帰らない姉のためにヘリアンサスが置いていた目印のランプだった。


ランプは今は、ヘリアンサス自身の目印となっていた。

少年は兜岩の肩の岩棚に座り、眼下の、真っ暗な海を見つめていた。

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