第395話 あんたたちに話すことは何も

「・・・手、どしたの??」


ベラキュリアの兵士や入れ墨の女が去ってゆき、がらんとした広間に二人だけになっても、

なおも少し気落ちしたようにぐずぐずしているアマリリスの手を、アマロックが引いてくれた。


アマロックと手を繋ぐ時はいつもは左手、なのに今日は心臓から遠い側の手。

その違和感に気づいて覗き込むと、アマロックの右手は、凶々しい爪を生やし外骨格に覆われた魔物の手。

しかも、どことなくいつもと違う、

形もどこかいびつなら、充血したように赤黒くなった気がする。


「これか。

こういうファッションに目覚めてね。」


「なによそれ。」


アマリリスはくすっと笑って、まだ馴染まないアマロックの左腕に精一杯身体をすり寄せた。


「そういえば、さっきアイツらに変なこと訊かれたよ。。

赤の女王を出せ?とか、黒の旅団?の合言葉を知ってるだろう、とか」


広間で、アマロックが来ると知らされる前にベラキュリアの兵士から受けた訊問の様子をアマリリスは話した。


”彼の異能者より、貴下は赤の女王の能力を継承せし筈。いずこに隠し帯びたるか”


”同じく、黒の旅団に連合せんが為の符牒を得し筈。その言葉は”


「それで、なんて答えたの?」


「いや、何言ってるかよくわからないし、何のことかもさっぱりだし。

黒の旅団って、あたしたちを襲ったチェルナリアのことだよね?とは思ったけど、

アイツらムカつくし、あんたたちに話すことは何もない、って言ってやったよ。」


「そうか。それで正解だよ。」


「マフタルも、あたしとは別に何か訊かれてた。

何を話してたのかはわからないけど。」


骸棄階層の通路の先に、そのマフタルの姿が見えてきた。


遠目には、通路の狭い幅に切り取られた視界の外にいる誰かと、しきりに身振り手振りを交えて会話しているように見える。

しかし、緑の箱庭の空間に出ても彼の声は聞こえず、彼の近くに話し相手は見つからなかった。


「・・・ナニやってんの?あんた。」


気味悪そうなアマリリスの声に気づいて、マフタルは両手をパッと背中に隠し、

いやその、違うんだよこれは、、みたいなことをもごもご言うので、

彼の奇妙な行動よりその受け答えに苛立ったアマリリスは、はぁ?何て??と声を荒げた。


「そっとしといてやれよ。

そいつもそういう年頃なんだろ。」


見かねたのか、単に面倒くさくなったのか、アマロックが助け舟を出した。

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