第463話 魔族の素顔#2
熱に浮かされた悪夢のように、繰り返し襲いかかってくる怯懦の幻影に歯を食いしばって耐え、
暗がりの中、魔族の背に向けてトヌペカは死の一撃を見舞った。
突き出した手は、音もなく魔族の掌の中に包み込まれていた。
その手肌の感触と温もりは、人間のそれと何も変わらないものだった。
一方でその膂力は、力強いと言うより、まるで手が古木の幹にめり込んでしまったようで、振りほどこうともがいてもびくともしない。
懸命に握りしめた拳は、アマロックの指によってアケビの皮でも剥くように押し広げられてゆき、
隠し持っていたもの――トリカブトの毒を仕込んだ
闇の中、魔族の金色の目が瞬きもせず彼女を見ている。
トヌペカは絶望の中で精一杯、アマロックを睨みかえした。
魔物の右手が、トヌペカの喉元に触れる。
トヌペカは観念して動きを止めた。
それから、鎖骨の下で動き始めた指の動きに慄然とした。
{安心しろ、お前は殺さない}
トヌペカの気迫に、補足が必要だと思ったのか、アマロックは付け足した
{その前後――犯したり、食ったりも。}
トヌペカの目に涙が滲んだ。
血が出るほど唇を噛みしめ、アマロックに捉えられたままの右手で
{ウソつき!}
{変態!}
{殺してやるッ!!}
アマロックはただ肩を
トヌペカはバランスを崩してたたらを踏み、床に尻もちをついた。
{まぁ落ち着け。
おまえが聞いておいて損のない話だ・・・・・・・・・・・・・・・・・}
『話』が済むと、アマロックは床に突き立っていた毒鏃を拾い上げ、ヤコウタケの灯りに刃先を透かして少し思案していた。
{しばらく借りておいてもいいか?}
トヌペカは黙っていた。
返してもらったところで、再度の復讐を試みるつもりが自分にないのは分かっていたし、他に使い途のある代物でもなかった。
沈黙を同意と受け取った魔族は、魔宮の暗がりの中に去っていった。
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