第554話 黒猫の目覚め#2

もとから寝床の中での拾い読みのようなものだったので、見覚えのあるページまで引き返して読み直すようなマメなことをする気もなく、

珍稀現象ファンタジアがあったと思っておくことにして、そのまま読み続けることにした。


「””あの岬は、あの丘は、海からはこんな風に見えるのだ。

まだ、いつもの素潜り漁よりよりもちょっとだけ沖に漕ぎ出した程度の距離だったが、わたしの目にははじめて見る島の景色だった


島を離れるや、この姿で外の世界に出ていっていいものかと躊躇する考えが生まれた。

島にまだ大勢の人がいた頃、叔父が剥いだ樹皮を祖父がなめし、叔母が糸に撚って祖母が布に織り、母が仕立ててくれた衣服は、

とうの昔にボロボロに朽ち果て、わたしが拵えた、ウミウのスカートにトウゾクカモメのケープは、

事情を知らない人が見たらぎょっとするような、裸よりはましではあっても、およそ淑女としての慎みには欠けるものだった。」


何年、十何年、ひょっとしたら何十年?

一人で暮らし、隅々まで知り尽くした島を離れるってどんな気分だろう。

やっと孤独から解放され、人間らしい暮らしを取り戻す未来に希望が満ち溢れているのだろうか。

慣れた土地を離れる寂しさと、未知の土地への不安に苛まれているだろうか。


たぶん、後者が全くないってことはないだろう。

物語からは、青いイルカの島への少女の愛着がありありと伝わってくる。

それでも少女は島を出ることを選んだ。


アーニャとワーニャ、現実世界のオオカミの1年児たちがいなくなった事情も、

ひょっとするとあたしが思っているようなものじゃなくて、彼女たち自身の何らかの決断の結果なのかもしれない。


藪の中や岩の窪みに隠れて、オシヨロフのオオカミのおこぼれで食いつなぐ生活、

当座はしのげても、アマロックの目こぼしを約束させてさえ、その先の見通しは暗い。


”変化を望むものなんていない。

けれど何かを選ばないとならないなら ――変化を怖れてもいない。”


それが魔族の、野にあるものの考えかた。


そしてこうして、読みながら脱線して別のことを考えたりしてるから、ストーリーの記憶が飛んだりするんだろうな。



窓の外が明るくなってきていた。

やっぱり朝になってたのね。

お腹も空いたし、出かけるか。。。

せめてその前に、人間の身体で紅茶チャイを一杯・・・


離れがたい温もりの寝袋から、身震いするような冷気の中に裸の半身を乗り出して、

ソファの下から、クジラの膀胱の袋に収めた衣服を引っ張り出す。


今日も現実の一日がはじまる。

ここのところアマリリスの頭を悩ます、現実の問題のぶら下がった一日が。

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