第359話 古代犀由緒記#2

「そんならあたしんとこの群、見なかった?

探してるの。オシヨロフってとこから来たんだけど。

どう?」


「さぁ、、アカシカの群とはたくさんすれ違ったけど。

特徴は?」


「・・・」


「・・・?」


「・・、名前書いといた!一頭づつ、”アマリリス”、って」


「そういう群は見かけなかったな。。ごめんね力になれなくて。」


どうやら冗談は通じないらしい。

そして魔族であればどこから来た群なのか分かるような期待をしていたが、そんなこともないらしい。


「いいよ。今度見かけたら引き止めといて、連絡ちょうだい。」


「連絡はアジさんにお願いするとして、、どうやって引き止めとくかな。」


古代サイの歩行に合わせて、ホバリングするように頭上を飛んでいるアジサシをバハールシタは見上げた。


「そんなことさせられんの? 鳥だよ?」


伝書バトだって、巣のあるところに帰るだけで、場所を指定して飛ばすなんてことは出来なかったはず。


「都合が合えばだけど、アジさんは時々、僕たちに体を貸してくれるんだ。

これからどっちに行こうかな? なんてときに、お願いしてOKしてくれたら、僕かバヒーバが意識をアジさんに移して、空から偵察するわけ。


あっちには良い草場があるぞとか、あっちは荒れ地つづきで難儀しそうだからやめておこう、とかいうことが先にわかれば、

アジさんにとっても悪い話じゃないから、だいたいは快く貸してくれるよ。

海の近くで、魚を捕るのに夢中になってる時なんかはダメだけど。


アジさんは本当はね、毎年、この星を一周するくらいの長い旅をする鳥なんだ。

けれどある時急に、方角がわからなくなって、旅を続けられなくなってしまった。

それで僕らのところに来たんだ。


一緒にいてくれれば僕らも助かるし、アジさんも、餌の捕れない冬でも、このデカブツの体に溶けて生きてゆかれるからね。」


「えーー、イイ話じゃん〜。」


だがアマリリスにもそろそろ、それが単に麗しい友愛の逸話というだけではないことが分かっていた。

巨獣の姿の群体は、有能な偵察としてアジサシを重宝している。

星を巡る旅の出来なくなったアジサシは、生きてゆくために古代サイの体に留まることを必要としている。


そう、

アジサシの側は「必要として」いて、両者の関係は対等ではない。

もしアジさんが方向知覚を失っていなくて、いつでも元の旅の空に戻れるのだったら、バハールシタが言うほどには「だいたいは快く」体を貸してはくれないんじゃないだろうか。


そんな性格の悪いことを考えるのは、あたしたちオオカミの群も同じだから。


古代サイのような姿形はないけれど、「群」をあたしたちは必要としている。

あたしたちが必要としているほどには、「群」は個々のオオカミを必要としているわけじゃない。


だからこそ、先頭を切ってあんな大きなシカの喉笛に喰い付いていくような、危険なことが出来るのかもしれないな。


・・そしてあたしは人間だから、オオカミでいることをやめても帰る場所があるから、まだそこまではとてもムリ、って思うのかも知れない。

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