第370話 Changeling
朝靄に霞むツンドラの野、見渡す限り、有史以来人の姿があった試しなどないかも知れない茫漠とした荒野に、一団の兵士が整列していた。
一度身につけたら、生きている間は解かれることのない武装に身を固めた、
彼らの騎馬である、長い鼻を持った奇妙な獣に跨った騎兵が10体ほど、その倍ほどの数の歩兵は、全員が三叉戟と投網を携えて整列している。
騎兵の操る駒に分乗して到着したトヌペカの母たち3名は、
とんぼがえりで別任務の要請とは、
とはいえ、このまま城砦にもどって番兵の
さっきからトヌペカは、
{堂々としていなさい。かえって怪しまれるわ。}
{いやいや絶対ムリ、すぐバレるしょ!
よく見りゃあたしより背低いし、顔も全然似てないし。}
{そうかしら。なかなかうまく化けたもんだと感心するわ。}
{感心してどうするよ!}
テイネの衣装を身に着けた「少年」は、二人の手話には反応を示さず、落ち着き払っていた。
単純であると同時に、巧妙な手だ。
ヴァルキュリアが同属を識別する能力は非常に高い。
特に、旅団に侵入しようとする異属には鋭敏であり、悪意の異属、たとえば他旅団のヴァルキュリアが、同属に偽装して旅団に侵入する試みは極めて困難である。
そのような高度に発達した識別能力は、ヴァルキュリアの生体旋律の歴史において、
――おそらくは諜報や破壊工作を目論む他旅団のヴァルキュリアによって――実際に偽装侵入が繰り返し試みられ、その撃退が自己保存の上で重要な課題であったことを物語っている。
一方、旅団に「合法的に」所属する異属、トヌペカの群族や、例の異能者のように、外部から招き入れられた協力者では事情が異なる。
ヴァルキュリアにとって彼らは、選抜によって獲得した傭兵であり、
同属の絆の上に成り立つ信頼を期待するような相手ではそもそもない。
傭兵としての価値を発揮してくれればそれでよく、城砦内での行動は特別な監視下に置かれていることもあり、個々に対する識別と認証は厳密なものではない。
特にトヌペカの群族のような集団に対しては、族長である
狡猾な魔族らしからぬ手抜かりとも言えるが、過去に、少なくともヴァルキュリアの自己保存比率の差になって現れるほどの頻度では、そのような方法での潜入を試みる侵略者はいなかったということだ。
ふと、トヌペカの
過去にそのような侵略者がいなかったのだとしたら、その発想を”彼女たち”はどこから得たのだろうかと。
やがてツンドラの野の先に、
旧世界の巨獣に従う、ひと群れの獣の姿が見えてきた。
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