Translucent Marchen [2]
ぷろとぷらすと
トワトワト編
第1話 トワトワトの夢と目覚め
雲が割れ、深い亀裂のような隙間から、わずかに金色がかった光が射しこんでいた 。
おそらく、トワトワトに来て日の光を見るのは、これが初めてだ。
光の当たっている海面は、ダイヤのかけらを集めたように、きらきらと輝いている。
しかし、それでアマリリスに対して、何か温もりがもたらされるわけではなかった。
海と雲の間の空間には、いつしか無数の海鳥が飛び交い、
水中の魚を漁っているのだろうか、海面に舞い降りては空中に舞い上がる動作を繰り返している。
悠久の昔から繰り返されてきたであろうその営みも、翼を持たないアマリリスには、別の惑星で起こる出来事のように、まるで関係のないことだった。
故郷を遠く離れ、何もかも失って、アマリリスは唯一人ここにいる。
世界の果てと呼ばれるこの場所でも、世界はまるで何もなかったように、今日を明日へと運んで行く。
アマリリス一人を残して。
膝を抱えていた手がゆっくりと緩んで離れ、砂の上にぱさりと落ちた。胸が膝に沈んだ。
もう、立ち上がることは出来ないだろう。
ゆっくりと乾いてゆく砂の城のように、このまま風化するのを待とうと思った。
どこからか、柔らかな音が流れていた。
最初、風の音かと思った。
それが笛の音だと分かったあとも、アマリリスははじめ、何も感じなかった。
しばらくたってから、アマリリスは顔を上げ、音のする方を振り向いた。
ゆるやかなカーブを描く砂浜の向こう、樹木が密生している辺りから、その不思議な旋律は聞こえてくる。
やがて少女はゆっくりと起き上がり、歩き始めた。
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