第131話 野ざらしの第三夜

「ほぼ野ざらしなんですけど?

ここ。」


「そうだね。」


「昨日みたいなクマ穴とかないの?」


「そうそう都合のいいところには、どうだろうねぇ。

この辺はいつも通りすぎるだけだから、あまりよく知らない。」


じゃぁ昨日の穴は何で知ってたのさ、と問い詰めそうになったが、それを口にするのもなんだかイタい子な気がして、言わずにおいた。


背丈を少し上回るくらいのダケカンバや、ミヤマハンノキが茂るゆるやかな斜面に、木々の間から頭を出した岩があり、

その根元のくぼみが、この近辺では一番快適な宿泊場所とのことだった。


加えてショックなことに、今晩は晩ごはんも食べられない。

アマロックが、ろくに調べにも行かないうちに、周囲に獲物はいないと言い切り、食べるものをもってきてくれなかった。

おまえ肉食獣のくせに、、、


いろいろと不満はあったが、アマリリスは笑顔で言った。


「ありがとう。

十分だよ、これで。」


「一人で大丈夫?」


「うん。


・・・じゃ、また明日!」


「また明日」


魔族はあっさりと去っていった。


一緒に居てあげようか?

という言葉が、本当は喉から手が出るほど欲しかった。

けれどそれを自分から口にすることも、アマリリスにはどうしても出来なかった。


今夜は、この岩のすき間で、一人で夜を明かさなければならない。

きっと寒いし、闇は恐ろしいだろう。

大気も今は穏やかだが、このあとどうなるか分からない。

冷えてきたら、危険を承知で火をたくしかない。

それでも寒さをしのぎきれるか分からないし、魔族に見つかってしまったら、やはり命はない。


そうなったら残念ではあるけれど、運が悪かったと諦めるしかない。

人間が居てはいけない場所・異界に足を踏み入れるというのは、そういうことだったのだ。

出発してからそれを知ったのはなんとも迂闊うかつなしくじりだったが、アマリリスは後悔はしていなかった。


昨日アマロックに助けてもらえたのは、単に幸運だったという話で、毎回期待できることではない。

そのかわり、このまま一人で朝まで生きていられたら、異界と人間の間にある断絶を、少しだけ踏み越えられたことになる。


そんな気がした。

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