第281話 想い馳せる闇の彼方#2
こうしていても、気がつけばアマロックのことを考えていて、そんな自分が
アマロックに対してというより、自分一人で照れている、
それは何とも滑稽な、そして幸福な感覚だった。
いったい、いつからだったのだろう。
今やアマリリスにとって、
明らかな後づけの動機ではあった。
それでもアマリリスは、目的のあること自体が楽しかった。
それによって生活に張り合いが生まれ、心まで暖かくなる感覚があった。
仮に何日も会えなくても、明日はきっと会えるという気持ちを大切にしながら、家路につくことが出来た。
その一方で、臨海実験所に帰ってきてこうして思うとき、相手が魔族であるということは、アマリリスに特別な注意を要求した。
クリプトメリアが繰り返し説く、魔族は危険な獣だから、という類のことではなかった。
それは全く気にならなかった。
より正確に言えば、考えないことにしていた。
人の忠告などこれっぽっちも聞きはしない一方、意外と暗示にかかりやすいアマリリスは、クリプトメリアから教えられたもう一つのことのほうが気にかかっていた。
魔族は自律的創出論の原理で生きる機械であり、その生には何らの意味も目的も存在しない、というこの世界の現実。
初めてそれを聞いた日から、アマロックのことをずっとよく知り、これだけ心の中で彼の存在が大きくなってもなお、その無機質で明快な論理は、有無を言わさぬ説得力を持ち、
アマロックに向かうアマリリスの心を拒絶する障壁のようになって立ちはだかっていた。
魔族には魂がない、とは、比喩的にこういうことを言い表しているのかもしれない。
そしてアマロックが魔族であるがゆえの違和感、心に感じる隔たりは、以前よりもむしろ大きくなったように思えた。
いや、そんなのはきっと気のせいだ。
距離が近くなったから、違いが目立つようになっただけよ。
アマリリスはいつも自分にそう言い聞かせた。
異界。。
人間が踏み入れてはいけない場所。
人間には見えないもの。
魔族だけでなく、異界に住むありとあらゆる生き物と、その営為に宿る何か。
もしくは、魔族が他者に及ぼす影響の総称。
考えてみれば少しも答えに近づけたわけではなかった。
アマロックもクリプトメリアも共に『ある』と言いながら、その定義からして違っているような
魔族、
この捉えどころがなく、人間のすぐ隣にいるようで、深い断絶に隔てられた存在の心を。
魔族や獣のように、
人間には
オオカミであれば、彼らの特殊な視覚や嗅覚を頼りに、お互いを見つけられるように。。。。。
アマリリスが想いを
その動作は
屍肉を貪り、腐汁にまみれたその体からは、人間にも感じられるおぞましい悪臭のほかに、ある危険な信号を発していたのである。
闇空にオオカミの咆哮があがると、その生物は食べかけの食物を引きずって、森の奥へと姿を消した。
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