第367話 黒の襲撃
蒼い空が広がっていた。
故国ウィスタリアの、抜けるような青空ではなく、北極へ接続する地の仄蒼い夜明け。
大地の目覚めは遠く、かといって安らかな眠りに戻るにも落ち着かない、憂鬱なトワトワトの朝。
さっきまでが夢で、今はそこから目覚めているのだと気づくのに、ずいぶんと時間がかかった。
眠りに就く前に、そんなことは起こらないからと自分に言い聞かせ、それでも縋るような思いで探したアマロックの姿は、やはり見当たらなかった。
それどころか、サンスポットたちの姿も失くなっていた。
不穏な夢と目覚めをもたらした、ただならぬ気配にようやく気づき、アマリリスは身体を起こした。
夜明けの薄闇にその巨体も霞む古代サイは、いつもの悠々とした、生命の去ったもの特有の超然から一変、
落ち着き払ってはいたが、警戒と闘気にあふれ、この時だけ、太古に失われた巨獣の霊がその肉体に甦ったかのようだった。
そのサイを取り囲む、7,8体の人影があった。
けれどその点々とした黒い影は、巨獣との大きさの対比を差し置いても細く頼りなく、
放っておいてもそのうち薄闇に溶けて居なくなってしまうのではないかと思われた。
長柄の先に
前方の一人に目がけ、サイは低く頭を下げて、地響きと共に突進する。
狙われた者は蚤が飛び跳ねるような敏捷さで後方に跳んで逃れ、その両脇に居た2名も攻撃の糸口を掴めず、突進の風圧に煽られるようにして身を翻した。
ヴァルキュリアは包囲網を立て直すと、前方の3人が刃光を閃かせて威嚇しつつ、
側面にいた数名が長柄を頭上に振り翳し、一斉にサイに襲いかかった。
次の瞬間、サイの背から幾筋もの黒い直線が発し、詰め寄ったヴァルキュリアを貫いて地面に突き立った。
巨象に蟻の群が挑むかのような戦闘劇もそれで終わりを告げた。
生き残ったヴァルキュリア達は、青黒い靄の中に足音もなく去り、
襲撃者を刺し貫いたサイの防御武器、脊梁に沿って並んだ腹足動物が放った刺胞はゆっくりとその体内に引き戻されていった。
後には、地に斃れた何体かのヴァルキュリアの骸だけが残された。
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