第584話 肉食之獣
それはさておき。
新たな生の歓びを知ったからといって、突然に魂が漂白され、崇高な理想を拠り所に生きるようになったのであった、
なんてことが、ことアマリリスに起きるわけがない。
別の一面としては、彼女は相変わらず欲深く浅ましいのだ。
やおら母性に目覚め、いずれ本当に母になった後にも変わらないであろう、それはアマリリスという人格の本質の一部だった。
アマロックがぐるりと寝返りをして、アマリリスの膝枕に頭を載せた格好になった。
しばらく、金色の瞳でアマリリスを見つめた。
やがて少し上体を起こして、肩にかけた毛皮の間から覗く左の乳房の突端を、そっと口に含んだ。
「ぃやん・・・」
戸惑い笑いを浮かべつつも、アマロックの戯れに応えた。
赤ん坊を抱く自分を思い描いて、アマロックのうなじに腕を添えて抱き寄せる。
紫紺色の縮れた髪を撫でながら、子守唄って何か知ってたかな、、と記憶のレパートリーを
『・・・歌声は翼を得て、はるかな国の水晶の流れへと運ぶ
月下のスイレンがわたしを迎え、スミレが星々とあなたを見上げる。。。』
優しい舌が敏感な部分をなぞる。
アマリリスは無言になり、手が止まった。
”食べて”
目を閉じ、もう一度強く念じた。
”胸も手足も、最後の血の一滴まで、、
私を食べてしまって。
アマロック”
アマロックはやがて悪戯をやめ、乳房をさらりと撫でて立ち上がった。
アマリリスは情けない表情で、恨めしげにアマロックを見上げた。
「もっと。」
「だーめ。
あんまり刺激すると子宮が収縮するらしいからね。」
「ちぇー。
ひどいよぅ、火つけるだけつけといて。」
「ぷっ。
可哀想に。」
アマロックは笑って、両手でアマリリスの体を抱き寄せた。
肩にかけたオオカミの毛皮の下に腕を差し入れて、背中やお尻を撫で回す。
そしてもう一方の手で、さっきの刺激に疼く乳房を握り、少し怖いくらいに力強く揉みしだいた。
一見乱暴なその動作も、十分に加減されていて、激しくされても痛くない。
一点に刺すような渇望は、じんわりした充足感になって、乳房から全身に散っていった。
アマリリスはもう一度、潤んだ目でアマロックを見上げた。
自分の浅はかさ、欲深さが怖い。
怖いし、恥ずかしい。
あたしをこんなふうにしたアマロックを、絶対に許さない。
アマロック肩に頬を寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
彼女の気が済むまで、アマロックはじっと待ってくれていた。
ようやくアマリリスが離れたとき、目尻には小さな涙の露が光っていた。
アマロックはそれを拭い、彼女の頬を撫でて言った。
「その獣みたいなカッコも、体を冷やすよ。
ちゃんと服を着た方がいい。」
「うん。」
こんな調子で、アマロックはすっかり、小姑のように口やかましくなっていた。
以前なら、うっとおしく思えたことだろう。
自分でも意外なことに、それに素直に服従するのも、新たな喜びになっていた。
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