第216話 期待も疑念も

低い音から始まり、高らかに抜けて行く遠吠えが、山々にこだまする。

多分、アマロックの声だ。


応える遠吠えが、全部で4つ。

サンスポットが混じっているのが分かる。

また、敵襲なのか。

それとも、、、


「・・・」


考えていても始まらない。

遠吠えの聞こえた方角に急いだ。


吠え声は三度を数えた。

その都度、方々から応答する声が上がる。

召集なのか、何かのメッセージを伝えているのか、或いは敵対者に対する怒号なのか。

それすらも解らない自分がもどかしい。


三度目を最後に遠吠えは絶え、アマリリスは方角を失った。

もう、そう遠くない距離まで近づいていたはずだ。

けれどいくら耳を澄まし、右往左往して探し回っても、死の沈黙に還った森からは、何の気配もしなかった。


途方に暮れた。

何気なく足元に目をやり、

アマリリスははっと息をのんだ。


雪に飛び散った鮮血。


かなりの量の出血だ。

周囲には、無数のオオカミの足跡。

まさか、この間の仕返しに女首領の群に襲われて、誰かがケガしたんじゃ、、


その時、オオカミの足跡に混じって、雪に深く突き刺さった二本の蹄の足跡に気付いた。


・・・・・・まさか。

まさかまさか、、


あまりにも多く裏切られ続けて、期待よりも疑念を結びつけることが癖になってしまった希望が、むくむくと頭をもたげる。


どごん、どごーん、と、雪が積もっていてもなお、地響きのするような、期待も疑念も根底から震撼させる物音がした。

大きな獣が蹄を踏み鳴らす音。

苛立たしげにがなる、くぐもった唸り声も聞こえる。

オオカミたちがせわしなく駆け回る気配、忍耐強い低い息まで。。


そこらじゅうで物音がするように聞こえる。

混乱するアマリリスの視界に、オシヨロフの群に囲まれて疾走する、立派な角を戴いた猛々しい牡ジカが飛び込んできた。

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