第598話 異界の最高位消費者

篠突しのつく雨の中、2頭の魔族の戦いは熾烈を極めていた。


お互いに向けて放たれた矢のように、両者は真正面からぶつかり合い、

アマロックの爪と、トパット゚ミの刃が打ち合って乾いた音を響かせる。


一息つく暇もなく、やはり湾刀のような鋭い刃を備えたトパット゚ミの脚が一閃し、アマロックを両断する、

と思えたより一瞬早く、アマロックは大きく後方へ跳躍し、ダケカンバの広がった枝に逃れた。


それを見るや、トパット゚ミも地を蹴って右手側の樹の枝に飛び上がり、大きくしなった枝の反動を利用して、

まるで黒い鳥の様に宙を舞い、敵方に襲いかかかった。


ふたたび、両者が空中に交錯する。

アマロックは全く応戦できぬまま、首筋めがけて振り下ろされた刃をかわし、

続けて繰り出された左脚の刃を、彼の持つ10本のナイフで受け止めた。

布を引きさくような音がして、その爪の8本までが折れた。


アマロックは地面に叩きつけられるように落下し、彼にしては滅多にないことだが、着地点で足をすべらせ、水しぶきをあげて転倒した。

短いが致命的な一瞬のうちに跳ね起き、両手の爪を作り直す。

既に交戦中、3度に渡って彼の武器はヘし折られていた。


肩で大きく息をしながらようやく身構えたアマロックに、

ダケカンバの枝に刃を引っかけて悠々とぶら下がった黒い魔族は、もう攻撃してこようとはしなかった。


「見事な体さばきだな


体格の差がなかったら、

あるいはおまえがより攻撃力の高い武器を持っていたら、

わたしも敵わなかっただろう


さて、まだ続けるかね


おまえは知っているか、

人間どもがタカとハトに的はずれな習性を見ていることを


ハトは、閉鎖された状況下で2羽の戦いとなれば、最終的に相手を殺す

しかし、タカは殺さぬ


われわれはタカだ

異界の最高位消費者として、攻撃対象に一撃で致命傷を与えうる武器を有している

だがそれは、われわれ同士で使うための物ではない

お互いに殴り合ってみて、痛かったら戦いをやめるというような

悠長なことができる得物ではないのだ


だからわたしは初めからお前を殺す気はなく

おまえもまた同じだった

だからこそ、我々は安心してこのような危険な戦いに

身を置くことができたわけだ


なぜ、この戦いをはじめたかを考えてみろ

これ以上の渡り合いは、お互いに時間と体力のムダだ」


アマロックは荒い呼吸のまま、無言でトパット゚ミを睨んでいた。

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