第353話 躊躇と耽美
闇の地平から青い光が天を差し、やがて前日のことなど何もなかったように太陽が顔を見せても、アマロックは姿を現さなかった。
アマロックが自由に動ける状況にいて、あたしたちと合流しようとしていたら、
この見渡す限りのツンドラで目印になる場所なんて他にないから、必ずここに来る。
魔族の考えることなんてわからない、とは言っても、こういう理屈に違いはないはずだ。
こうなるとただ待っていても、アマロックが戻ってくる見込みはないように思えた。
探しに行く、というアマリリスをマフタルは遠慮がちに諌めた。
「やめといたほうがいいよ、、
今度は
「・・・ どっちのがヤバい、とかあるわけ?」
「いや、どうだろ。
どっちもどっち?」
こういうところが妙にイラつく。
「あ、でも噂だとレアキャラで赤いヴァルキュリアも居るらしいよ。
そいつはマジヤバくて、誰も姿を見たことがないんだって。
アガる〜〜👆」
力いっぱいガン無視して、アマリリスは北を指してスタスタと歩き出した。
背後であたふたと古代獣が起動する気配がして、のしりのしりと追いかけてくる。
横目で、ツンドラの野に点々と佇んでいるオオカミたちを見やった。
動く気配は、今のところない。
それは「まだ」動き出さないということなのか、アマリリスがどこかに行ってしまってもついてくる気がないのか、
この距離感ではまだどちらとも言えない。
古代サイがアマリリスのすぐ後ろに追いつき、明らかに彼女が振り返るのを期待して歩調を合わせても、
アマリリスはずいぶん長い間、そうしたくなる気持ちを抑えて歩き続けた。
小高い丘を登り切る所まで来てから、アマリリスはようやく来た方を振り返った。
昨日の嵐の名残の青黒い雲が濃い影を落とし、足元では地を彩る花々も、唯々広い大地のうねりにもまれて茫洋とした色彩の中に溶けてしまった野の先で、
オオカミたちは、そう思って見つめなければ見つけられない点々となって、さっきと同じ場所に佇んでいた。
アマリリスの方を見てもいなかった。
これではっきりしたが、オオカミたちは行方不明の首領の捜索に付き合う気はないということだ。
まぁ、それならそれで。。。
正直、サンスポットぐらいは一緒に行ってくれるのでは、という淡い期待も破られたわけだが、失望はなかった。
それが薄々わかっていたから、アマリリスもツンドラを歩くのに向いたオオカミの姿ではなく、あえて人間のまま出掛けたのだし。
一方で、募ってくる心細さを、もはや自分の心に認めないわけにはゆかなかった。
茫洋とした色彩の中でこれでもかと存在感を発揮している、古代サイの赤銅色の巨体がのしのしと坂道を上がってきて、アマリリスを追い抜きかけて止まった。
サイの体を隠れ家にしている鳥が頭上を飛び交い、小動物たちはそこらで草を食んだり、地面を引っ掻いたりしている。
首の付け根の出入り口からマフタルが顔を出して声を掛けてきた。
「乗っていきなよ、中にいれば安全だし、ラクだし。」
「・・・」
躊躇しつつ、差し伸べられた手に伸ばしかけた手を、マフタルとバヒーバの姿を見てアマリリスは引っ込めた。
サイの体から乗り出した半身は肌が露わで、少年らしい華奢な肩と薄い胸板を見せていた。
マフタルたちが着ていた黒い衣は織物ではなく、古代サイの穴だらけの体を埋め、その制動を担う網目状の魔族の組織が変形したもので、彼らがサイの体内に入ればサイの組織に戻るのだ。
それはわかったとして、、
ハダカの男どもと一緒に怪しげな乗り物に乗り込むって、、アマロックというものがありながら(どういうものかはおいといて、)女子としてどうなのよ。
いいのか?あたしはオオカミの毛皮着てるし。
でも身につけてるものは毛皮一枚って、それはそれで耽美的な気も、、、
妙な思考の窪地に嵌り込んでいたアマリリスだったが、バヒーバの次の一言で一気に醒めた。
「あ、その毛皮は、鎖骨のところに収納があるからしまっといて。
変身膏薬がこのデカブツの中に入ると、誤動作を起こすことがあるんだ。」
「あれれ?? ねぇ乗らないの?
Hey, そこのすてきな
カムバーーック!!」
それっきり少年たちがいくら呼びかけてもアマリリスは見向きもせず、北を指して歩き続けた。
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