第300話 こんなことさせてちゃ

降りはじめるのも時間の問題と思われた天気も、結局崩れることなく、夕方には薄日も差してきた。

どこかの梢で、ツグミが独り言のように黙々とさえずっていた。


アマリリスの気分も次第に落ち着き、そうすると、何もかもが気の迷いだったのではと思えてくる。

一日中歩き回って何ともならないんだもの、この森に魔物も化け物もいやしないわよ。

幻力マーヤーの森、だなんて呼ぶ人間がビビりすぎなのよ、要は木がいっぱい生えてる場所、それだけのことじゃない。


しかし一日中歩き回ったにも関わらず、アマロックに、そしてオオカミ達にも出会えなかった。



ふてくされて座りこむアマリリスに、夕刻を告げる、北国に特有の金色の光が注いでいた。

黒真珠色の髪が淡い光を帯び、彼女が腰掛けているダケカンバの白い幹も、枝葉の繁りも、穏やかな色調を与えられていた。


ヘリアンサスはファーベルの方を見た。

あいにく余所を向いていて表情は確かめられなかったが、さっきから(だいぶ前から?)口数が少ない。

疲れているだろうし、ファーベルには日々こなさなければならない家事が山ほどあるのに、今日はそれを全てほっぽってアマリリスに付き合っているのだ。

こんなことさせてちゃいけないな。


ヘリアンサスは心を決め、うなだれ口を閉ざしている姉に近づいていって、言った。


『もう、今日は帰ろうよ。』


『・・・』


『明日また来ようよ、一緒に来るからさ。。。


明日はきっと見つかるよ。

会いたいんでしょ?・・・アイツに』


『・・・・・・

そだね』


もう帰ろうか、と言いかけたそのときだった。

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