第41話 暗がりの焔#2

こうして火を見ていると色々なことが頭を通りすぎる。

ゆらゆらと燃えるほのおの形は、世界中どこに行っても同じだ。

薪のはぜる音、頬を照らす熱の感じも。


アマリリスはため息をついて立ち上がった。

長い黒銀の髪を、2本のかんざしを使って巻き上げ、上着のボタンを外していった。



湯船のへりに腕を組んで顎を載せ、アマリリスはぼんやりと海の方を見ていた。

夕潮が満ちてきて、船着き場でちゃぷちゃぷと波の戯れる音が聞こえる。

湾内の水面に飛び出した岩塔や、岸を覆う森は青黒くかすみ、兜岩のてっぺんのあたりだけ、まだ夕映えが残っている。


体はもう十分に暖まっていたが、この居心地のよい空間から出ていくのが惜しくて、アマリリスはぐずぐずしていた。


と、穏やかな波に洗われる浜の向こう、夕靄の中をイルメンスルトネリコの方から歩いてくる人影を見つけた。

アマリリスはすっかり嬉しくなって呼びかけた。


「アマロック!」


手を振るとアマロックは立ち止まり、こっちに向かって歩いてきた。


「やぁ、バーリシュナ。

花のかんばせが、まるで高貴な巫姫あそびめのようだね。」


「何よそれ。

ファーベルに会いに来たの?」


「いいや。

おう、レミングの巣みたいだな、ここ。」


断熱のためなのか、屋根のトタンと梁の間に押し込んであるかやが所々ほつれて垂れ下がっているのをよけて、

アマロックは外気に向けて湯気を吐き出す小屋に入ってきた。

アマリリスは答えるかわりに、うつむいて、かんざしをそれとなくいじった。


人が二人いれば一杯になってしまう狭い空間にアマロックと二人になって、急に落ち着かない気分になってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る