第525話 ビサウリュークへの犠牲
ビサウリューク、
いかにも怪しげなその名を聞くのははじめてだったが、アマリリスは以前から知っていた気がした。
赤い
その姿かたちを容易に思い浮かべることができたが、それは
鮮血の色合いのまま凝固した血糊の鎧、あるいはバルドラの野に住むという真紅の毒蠍の外骨格のようなもので、全身くまなく覆い尽くした異形だった。
頭部もすっぽりと覆われているので顔はわからないが、その赤い兜が開くことがあれば、中に誰の顔を見ることになるか、アマリリスはそれも分かっていると思った。
――あるいは、そこに人間の顔に似たものを見つけることはない、かのどちらかだ。
「それじゃぁー、
お義母さんコロしはやめにしてっ!レヴコーをお金持ちにしてあげよう!」
スネグルシュカはそう言って、袖をひらひらさせながら数歩行っては回れ右して戻ってくる、単調な舞を踊りながら歌った。
炊事場の窓から注ぐ
「♬ワナビー、♫レヴコー、いっっくらイケメンでもーー
♬ビンボー、♫レヴコー、チーズよりもいーっぱい穴あいた、空色の
そりゃ継母がいぢわるじゃなくたって、恋仲にうんと言うわけがないよねぇーー
そんなら、
その夜限り咲く、かれの
それから星降る野に行って、赤い羊歯の花を投げればっ!ヤトロファ人が埋めていった金銀財宝の在り処を教えてくれるぅ♬
そしらたレヴコーは大金持ち、お父さんも、いぢわるお義母さんも二つ返事で結婚承諾間違いなしっ!」
「でも。。。」
「そうしたら、レヴコーが不幸に、、ってことにならない?」
スネグルシュカは意表を突かれた様子で、可愛らしい仕草でちょっと首を傾げてから、
「ではっ!
ビサウリュークの呪いは、誰か別の人に肩代わりしてもらうことにしよっか!
誰がいいかな誰がいいかな、、、
たしか、お義母さんの連れ子は一人じゃなかったよねぇ?」
スネグルシュカの問いかけに、娘は、赤い
アマリリスもまた固唾を飲んで次の言葉を待った。
「これで決まり!
いぢわるお義母さんには、
代わりに、亡き
純白の
竈の炭が崩れ、からんと乾いた音がした。
アマリリスは青い表紙の本を手に持ったまま、静かに燃える炎を見つめていた。
・・・まあ、そりゃそうよね。
途中から、あ、これは夢だな、って気づいていたような気がする。
でも、どこからが夢だった?(てか、いまあたし寝てた??
スネグルシュカが現れたとき、あの感じは絶対に夢じゃなかった。
あれが幻覚だっていうなら、あたしは、スネグルシュカの言う通り幻覚と現実の区別がつかなくなっている。
けれど、だとしたらそれを言ったスネグルシュカ自体が幻覚ってことに・・・??
ちょっとめまいがしてきた。
物証を求めて、火の精に守られた魔法円の外側の、雪や霜に覆われた床を見回したけれど、明らかに自分のものとわかる足跡以外に、誰かがそこを歩いたような形跡は見当たらなかった。
「・・・・」
まぁ、今日のところは、、
スピリチュアルが実在するのかも、と思っておくか。
薪が燃え尽き、アマリリスが立ち去れば、竈のまわりにもあっという間に寒気が戻ってくる。
そこに誰かいたような形跡は残しつつ、やがて純白の霜と雪に覆い尽くされてしまうのだった。
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