第12話 マギステル楽派

この物語の世界で、宇宙に存在するあらゆる物体と事象は、設計音譜と呼ばれる、人間が直接耳で聞くことのできない音とその組み合わせ、つまり音楽によって構成されていた。


物質は現在発見されている範囲で、百数十個の基底音の組み合わせから成る。

ちょうど大聖堂のパイプオルガンが、使用するパイプの組み合わせによって、無数の音色を奏でるように、

多種多様な物質はそれら基底音の和音によって生成され、砂粒から星雲に到る、宇宙の構造を作り上げている。


星の軌道をはじめとした物体の運動は、古くは星界の音楽と呼ばれた旋律に従って運行されている。

数と量の周期や律動は、複螺旋楽式論によって表される旋律を奏で、

生物の身体構造は、生体旋律と呼ばれる旋律によって決定されている。


これら、宇宙を演奏する音楽に関する研究は、以前はそれぞれ分断した学問分野を構成していた。

同じ旋律を扱ってはいても、弦楽器と管楽器では楽器の操作の仕方が全く違うように、

設計音譜の表現ひとつをとっても、ある分野では立体を、ある分野では図や記号を用いるといった具合で、それぞれ別の音楽を追求しているものと考えていた。


約200年前、ボレアシアの小国、カスターリエンで、それらを統合する理論が打ち立てられて以降、宇宙の解明と科学の進歩は、飛躍的な発展を遂げる。

それまでが、言わば各演奏者があちこちでてんでばらばらに楽器を鳴らしている状態だったのを、

コンサートホールに集めて整理し、統率する、指揮者の視点を与えるものだった。


この理論によって再構築された世界観は、発祥となった宗団の最高位役職名を取って、マギステル楽派と呼ばれる。

設計音譜の解析や合成を可能にする装置、ガラス玉オルガンの発明も、楽派の最大の功績の一つである。

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