第127話 大河の歌
前日と一転、晩秋のトワトワトの空は、穏やかな表情を見せた。
空の低い位置をめぐる、目に眩しい太陽の光を浴びて、草紅葉の赤や橙、ハイマツの緑が輝くなだらかな高原を、二人は歩いていった。
前日より身も心も軽くなって、アマリリスは道すがら歌を口ずさんでいた。
故郷の言葉の歌。
最近どこかで歌ったような気がする。
『遠い山岳の氷河に生まれ、広大な大地を私は旅する。
煙る
流域にはかつて無数の国が生まれ、栄え、争い、滅びていった。』
途中でアマロックが合わせて歌い始めた。
こちらは、ラフレシア語。
へぇ、ラフレシア語にも「大河の歌」の歌詞があるんだ。
興味がわいたが、自分がウィスタリア語で歌いながらだと、ラフレシア語の意味を聞き取ることはできなかった。
『この大地に降り注ぐ一切を、この身に集め流れる私は知っている。
天地
悲しみと祈りが、虚しく荒野に吹き散らされていったかを。
『融雪とともに
労苦の末に得た貴い実りが、
無慈悲と暴虐の濁流に飲まれ、泥土の底に沈んでいったことを。
『そして私だけは知っている。
遥か流れを下る一艘の帆掛け船が、蒼空の果て、やがて無限の大海に漕ぎ出て行くように、
いつの日かこの大地に、真の調和と平穏が訪れるであろうことを。』
アマロックに、サンスポットに、あのヴィーヴルや、異界に生きるあらゆる構成体に、この世界がどう映っているのか、少しだけわかるような気がした。
輝きに溢れる美しい世界。
残酷で寂しい、苦悩に満ちた世界。
人間の心に映るそういった感慨とは少しも関係なく、彼らは彼らの営為を重ねて行く。
”分からないだろう”
アマロックは繰り返して言った。
けれどそれによって落ちこんだり、越えがたい壁に
むしろ、それを知らなかったから、これまで幾度も打ちのめされ、苦しんできたんだ、という直感が天啓のように降ってきた。
アマロックに感じる優しさと酷薄、
異界の森の、鮮やかな色彩に見る感動と、暗い霧の不安や苦悩。
目を見張る美しさと、耐えがたい残酷さに引き裂かれた世界そのものが、納得のできる姿に戻って自分の手元に還ってくるにちがいないと、
そのとき、アマリリスは思っていた。
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