第476話 赤き母より、全軍へ

ベラキュリア城内、神とのつながりを失った宗団の信者のようにじっと立ち尽くす兵士たちに、

細かなノイズを伴った声が届いた。


## 赤き母より、全軍へ。


只今をもって、すべての傭人やといにんを解放する。

かれらが行きたがるところに行かせ、住みたがる処に住まわせるように。


かれらは天険に住まうユキヒツジであり、あるいは山野を渡るオオカミであり、

ユキヒツジとして、オオカミとして生きることに長け、それぞれにうまくやっている。


あなた/あなたがたは白の旅団であり、白の旅団として生きることに長けているのであって、

獲物を求め山野をさすらう生活、天険に蘚苔をすする生活を、それが可能だとしても選びはしないであろう。


それなのにどうして、かれらがあなた/あなたがたの思惑に沿って自らが長けた生活を放棄し、他者が用意した生活を選ぶと、

”ともにこの城砦の栄えある未来”を築くことに協力するなどと考え得たのか。

人間でもあるまいに。


今後は、あなた/あなたがたの長けた方法によって生きるがよい。#


ベラキュリアたちは再び時が動き出したかのように活動をはじめ、自分たちの作業に戻っていった。



城砦がその外観を少なからず変化させたように、彼女たちの変化は主に外向きに現れた。

新たな中枢からの司令通り、城砦に拘束されていた異族は解放され、彼らの収集を任務としていた徴用隊は廃止された。


最重要事業であった戦争が凍結となったために、狂戦士バーサーカーの錬成は大幅に縮小され、

その大半が兵站に供されていた輸入品、それを得るための輸出品の生産もほぼその需要が消滅したことで、

ベラキュリアは外交を断った、内向きの旅団となった。


その一方で城砦内では、兵士たちは引き続き緑の箱庭の作物を育て、城砦に留まることを選んだ鼻長駒は以前と変わらぬ様子で草をんでいた。

ササユキの胎を出た播種個体たちによって素体の錬成も維持され、生産活動の総力を復興と生活の向上に注ぎ込むようになったベラキュリアは、やがては噴火前を上回る繁栄を築くことになる。


その間、赤の女王は沈黙を保ち続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る