第309話 秘薬エリクサ
「事実を伝えれば――技術的には可能だ。」
アマロックの謎かけのような話を伝えると、クリプトメリア博士の顔が曇った。
困惑というか、言いよどむような雰囲気。
珍しい事だった。
「あいつ、そんな事まで知ってんのか。。」
「オオカミに変身出来るってことですか??人間が。」
「魔族の変身の、人工的な再現といったところか。
魔族が多重表出型を持つのは、それぞれの姿の旋律を体内に持ち、それらを任意に発現させられるからなんだ。
アマロックの体には、人の姿、オオカミの姿の生体旋律が入っている。
あとは、あの悪趣味な付け爪の旋律もか。
機械オルガンが、入力する楽譜によってさまざまな音楽を演奏するように、あいつはそれらの旋律を、自由に切り替えることが出来る。
人の旋律を使えば人の姿に、オオカミの旋律を使えばオオカミの姿になるというわけだ。
一方、人間は人の姿の旋律しか持っとらん。
だからそのままでは、何かに変身することはできない。
だが、複数の生体旋律を用意することは可能だ。
自分の体の中に持っていなくても、他の生物の組織を持って来ればよい。
ほんの血の一滴にも、元となる身体の全ての旋律が含まれている。
あとはその旋律を、変身しようとする身体を材料にして発現させる仕組みがあれば良いわけだが。」
クリプトメリアは書棚から分厚い本を取って来て、ページをいくつかめくった。
「エリクサと呼ばれる特殊な薬品を使うと、可能になる。
母体となる身体の意思の働きを受けて、他の生体旋律の発現を制御する触媒だ。」
アマリリスが身を乗り出して本をのぞき込んだ。
クリプトメリアも自分の専門分野の話題になり、否応もなくのめり込んで来たようだ。
「この実験所にある薬品を混ぜ合わせて、ガラス玉オルガンで処理すれば合成できる。
そして、おあつらえむきに君がこのあいだ買って来たオオカミの毛皮がある。
役者は揃ったというわけだ。
オオカミの生体旋律、エリクサ、そして発現の鍵となるあなたの意志が加われば、
あなたの身体を媒質としてオオカミの生体旋律を発現することができる。」
アマリリスが目を輝かせた。
それから慎重になって尋ねる。
「元に戻れるんですか?
一生オオカミのままなのはちょっと。」
「それは問題ない。
基本的にオオカミになった状態のアマロックと一緒だよ。
意識の働きによって発現する生体旋律が選択されるわけだから、
そう望めば人間の姿の生体旋律が発現し、分離して毛皮と人間に戻る。」
思いもよらない新事実と、それが意味する可能性をうまく消化できずに、アマリリスはしばらく軽い放心状態にあった。
やがてそれが、大きな興奮に取って替わりかけた時。
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