第489話 それは本当だろうか?

迎えの船が来るのは再来週だから、まだかなり日数が残ってる、

去る者も残る者も、皆そう思っていたが、そのじつ、時間はびっくりするぐらい早く過ぎていった。


家財の類は実験所の備品なので置いていくわけだが、それでも生活の場を丸ごと別の場所に移すとなれば準備は大仕事になる。

その仕事の忙しさから、アマリリスだけが無縁だった。

そのことをなんだかうしろめたそうに、みんなアマリリスの顔色をうかがうようにして仕度をしているのに気づいてから、

アマリリスは残り時間を共有するのは夜に留め、日中は今までどおり森で過ごすようにした。


そういうときに限って、アマロックとも、オオカミとも会えないものだ。

アマリリスは孤独を噛みしめながら、どんどん葉を落としていく森をさまよい歩いた。

目に染みるような鮮やかな赤や黄の色彩も、アマリリスの気分まで染め上げることはできないみたいだった。



あれだけ迷いない即断をしたにも関わらず、アマリリスの心は暗かった。


実験所閉鎖、、、財政難、、国庫、

戦争。


あの戦争は、まだ今も続いていたのか。

トワトワトに来てからというもの、外の世界がどうなっているかなんて、考えたこともなかった。


唇を噛んだ。


これを知ったら、クリプトメリアもヘリアンサスもさぞ驚くだろうが、

本当のことを言えば、トワトワトに残るという決断が、どれだけ彼らを傷つけ、苦しめるか、わかっていた。


この先の事を考えれば、クリプトメリアにくどくどと説明されるまでもなく、

不安と心細さと寂しさで、心がばらばらになってしまいそうだった。


だからといって、別の道はあり得なかった。

魔族が魔族として以外に生き得ないように、彼女にはこの決断以外は考えられなかった。


でも、何のために?

一体何のために、あたしのことを気にかけてくれる、かけがえのない人たちと離れてこの無人の荒野に残るの?

アマロックを愛しているから?


・・・それは本当だろうか?

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