第264話 HP・PP
岩崖が海にせり出し、満ち潮の今は、海の中に並べられた踏み石を渡ったりしなければならない、足元の悪いところでアマリリスはもたつき、アマロックにだいぶ遅れを取った。
軽々と通り抜け、そのまますたすた歩き去ったアマロックは、ちょうどイルメンスルトネリコの前辺りの浜で、バケツを手に、臨海実験所から走ってきたファーベル、ヘリアンサスに出会った。
「あーー、アマロック!」
「やあファーベル。」
ファーベルは歓声を上げてアマロックに走り寄った。
ヘリアンサスには、その流れで抱擁するかのように見えたが、両手でハイタッチして、そのまま手を握りあったような格好になった。
「あっちで何してたの?」
ファーベルの問いには答えず、アマロックはファーベルと握り合った手を二度リズミカルに上下に振り、それから離してポン、と手拍子を打った。
ようやく追いついたアマリリスには一層、悪ふざけめいた光景に思えた。
歌と手遊びを混ぜ込んだ、アマロックとファーベルのお遊戯。。。
『なぁにやってんのよ、ったく。。』
さっきは人のお尻触っといて、今度は、、、
何さ、魔族のくせに浮かれてんの?
やはり若干引き気味のヘリアンサスとの間に挟むような位置関係で、腕組みをして、魔族と少女の不思議な交流を眺めた。
歌詞にはほとんど意味がなく、HとPの音、そして撥音だけで構成される言葉遊びのような歌。
向かい合った二人がタイミング良く、互いの手を打ち鳴らし、肘を掴み、ステップを踏んでくるっと一回転。
ウィスタリア人の二人が目にするのは初めてだが、こういうのは万国共通の流儀がある。
ラフレシアの童歌なのだろう。
ファーベルもとても楽しそう。
時々トチってステップを間違えたり、変なところで手合わせに行ったりするが、アマロックはまるであらかじめそう決まっていたみたいに、うまくフォローしてしまう。
こういうところは本当に優しくて、思いやり深い。
「きゃははは、えへへ」
ファーベルは次第に笑いが止まらなくなり、腰が砕けてすとんと座り込んでしまった。
もうダンスも何もあったもんじゃない。
アマリリスもそれを見て、思わずくすっと笑いを漏らした。
ふと気づいたら、アマロックがこっちを見ている。
・・・ずっと前にもこんなシーンがあった。
今度は、魔族は手を伸べてアマリリスを招いた。
「おいで、
心では躊躇しながら、アマリリスは迷わずそれに従っていた。
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