第211話 どうして?

ちょうど夜が白みはじめる頃、臨海実験所についた。


毛皮外套を羽織らせたまま、アマロックはアマリリスを背から下ろし、雪の上に立たせた。

臨海実験所の正面扉の前、夏ならすり減った石のたたきが足の下にある場所だが、今は跡形もなく雪に覆われている。


足指が、刺すように冷たい。

けれどこれからアマロックが戻らなければならない、白魔の森の過酷さに比べたら、何てことはない。

凍てつく寒気の中に裸の上半身をさらし、魔族は平然とそこに立っていた。


「ありがと・・・」


かすれた声で呟くように言った。


「どういたしまして。」


アマロックの金色の瞳を見上げた。

これで2度目・・・いや、3度目だ。

初めて森に行った日、

奥地の初霜の夜、

今日。

アマロックに命を助けられたのは。


視線を伏せた。

ファーベルをいとおしげに見つめるアマロックの姿を思い出す。

再び視線をあげ、勇気を振り絞って訊ねた。


「どうして、助けてくれたの?」


「君は、美しいからな。」


その言葉は嬉しい。

嘘ではないのだろう。

けれど。。。


もうひとつ、あと一言訊きたい。

けれど、それをうまく言葉に表すことができなかった。


言い淀むアマリリスの目の前で、魔族は無造作にブーツとズボンを脱ぎ、アマリリスに手渡しながら言った。


「しばらく、森には来ない方がいい。」


「・・・え?」


金色の瞳はそのままに、一糸纏わぬ裸の姿は、黒々とした荒野の獣に変化していった。

一陣の風のように、白一色の世界を駆け抜け、台地の上に駆け上がって見えなくなった。

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