第205話 あなたは魔族だもの

「お母さんて、どんな人(?)だったの?」


「魔族だよ。

おれと同じ、人狼の。」


「そりゃそうなんだろけど、何て言うのほら、優しいとか、コワイとか、聞きたいのはそういうことよ。」


「難しいこと言うね。」


アマロックは笑って、アマリリスを見ただけだった。


「・・・じゃ、髪の色とか、どんな声だったとかでもいい。」


「髪はおれと同じ紫色だった。

声ねぇ。。。どうだったかな。」


「美人だった?」


「そうだね。

けど多分きみのほうが綺麗だよ。」


「ホント!?」


「いや、微妙かな。」


「何さ、そこ重要じゃん。

どっちかはっきりしてよ。」


アマロックはやはり笑っただけで、答えなかった。


その様子は、今までに知っている、誰かが母親について語るときの思慕や照れくささ、安息、憧憬といったもののどれでもなくて、

アマリリスはついつい、聞かずにおこうと思っていたことを聞いてしまった。


「お母さん、今は。。。?」


「死んだよ。

おれをかばって、他の魔族に殺された。」


予想できたことだが、魔族はさらりと言ってのけた。


「優しいお母さんだったのね。。」


「そうだな。

おれの弟が脚を折ったときは、殺して食べてたけどね。」


心がざわついたが、抑えた


「悲しかった?

お母さんのこと、恨んだ?」


「あいにく下等動物なものでね。

そういう抽象的なことを考えるのは苦手なんだが、

人間はどうなんだ。

母親が弟を食べたら、おしなべて”恨んで””悲しい”ものなのか。」


「、、そりゃ、もちろん。」


何故か少し口ごもった。


「不思議だね。

君らは個々に言うこともまちまち、考えもばらばらなのに、そんな限定的な出来事への反応は同じなのか。

ちなみに、その恨むとか悲しいとかは、どこに掛かるんだ。

母親が食べたこと?

弟が食べられたこと?」


「両方よ。

そんなこと、ダブルショックよ。」


「ふむ。」


アマリリスの言い方がキツかったせいでもないだろうが、魔族と人間の断絶を表象するかのように、会話は途切れた。

アマリリスは気まずくなった。

この魔族と話を続けたかったのだ。


「あたしは人間だからね、、そんなことがあったら悲しいわ。

一生、恨むと思う。

誰も悲しんでくれないとしたら、あなたの弟が可哀想だと思う。


でも、あなたは魔族だもの。

それでいいのよ。

私たちみたいに感じないからといって、

そして、あなたのお母さんがしたことも、

そのことが下等だとか、卑しいとかは思わないわ。」


「そうか。

それじゃ、おれの代わりに、弟のことを悲しんでやってくれ。」


「うん。。。」

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