第573話 檳榔樹〈びんろうじゅ〉の森 ふたたび
アマリリスが空想を巡らせていた先の場所であったか、そうでなかったか。
紺碧の海原の彼方、強烈な日光を浴びた樹々は黒々と、天を衝いて聳える。
魔獣の悍しい息を浴びながら、犠牲の女は身動きもしなかった
凄惨な陵辱の末に、その優美な四肢は引き裂かれ、大きく肉を喰いちぎれ、
今まさに、腹を食い破られようとしていた。
なめらかな肌に口を開けた傷口から、魔獣は女の臓腑を引きずり出し、溢れる血を啜った。
魔獣は愉悦から、舌鼓を打つような声を上げ、血と入り混じった涎が女の頬に滴り落ちる。
その時、とおに息絶えていたと思われた女が、血まみれの瞼を見開いた。
そこに現れた灰色の瞳は、自らの命運を諒解しつつ微動だにしない、狂気と紙一重の信念に爛々と輝いていた。
拳に握った右手に隠し持ったものを、女は魔獣の首筋に突き立てた。
森の枝葉のことごとくを震撼させる咆哮が轟く。
魔獣はのたうち、巌をも砕く拳を、女の顔面に叩きつけた。
血と脳漿が、噴水のように飛び散った。
怒り狂う魔獣はなおも2度、3度と女を打ち据え、それが原型も留めぬ肉屑となったところで、ようやくその動作は緩慢なものとなってきた。
今わの際に女が放った報復は、彼女の任務をより確実に、迅速にするためのものだった。
予め彼女の血中には大量の、遅効性の麻薬が投与されていたのである。
やがて魔獣は、深い昏睡の淵へと沈んでいった。
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