第110話 牛山羊の星座

谷に下り、風はおさまったが、相変わらず霧は深かった。


あたりには、硫黄の臭いが立ち込め、まばらな芝草と、立ち枯れた樹木の間の地面を、黄色く濁った川が流れていた。

意識はますます朦朧としてきて、支離滅裂しりめつれつな想念や突飛な考えが、頻繁に頭の中を行き来した。



『もう少し行くと、”出口の門”がある。』


彼女に並んで歩く父が語りかけていた。


『魔族の王がその門を守っている。

通るには、くちなしと、ひめゆりと、すべりひゆの謎を解かなければならない。

キンロバイの花にかけられた幻力マーヤーが、謎を解く鍵だ。』


『キンロバイって? もう秋なのよ。

トワトワトに、花なんてどこにも咲いてない』


『大丈夫。

あなたになら見つけられるわ、


リル。』


振り返ると、父も、ヒルプシムも姿はなかった。



今度は、ファーベルとヘリアンサスが話している。


”神様って、いると思う?”


”今、アマリリスが探しに行ってる。

見つからないと思うよ。”


”カラカシスを飛ぶ鶴は、アマリリスを運べないわ”


”牛山羊の星座が導いてくれる。

だから大丈夫。”



ねっとりとした重さの霧を掻き分けて進むと、

アマロックと、ヴィーヴルの女魔族が向かい合っていた。

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