第387話 自己像幻視

「・・・は? 何て??」


骸棄階層カタコンベを抜けた先の広間で彼女を出迎えた、ベラキュリアの兵長の説明を遮り、アマリリスは急き込んで尋ね返した。


「要請により私/我々は面会のため招聘せり。

彼の異能者の伴侶にして、赤の女王の保有者である貴下を。」


「・・・それって、、」


声が震え、アマリリスはほとんど絞り出すようにして尋ねた。


「アマロックの、こと?」


「現在、作戦室からこちらに向かわれている。200秒ほど待たれよ。」


アマリリスは虚ろな表情で、困惑のマフタル、露骨に迷惑そうな刺青の女の顔を見回した。


・・・いやいやいや、、


「無理ッ!

絶対ムリ、今度ばっかりはムリだってば」


マフタルの背後に逃げ込んで、どこかのネジが飛んだ自動人形オートマタのように無理無理と繰り返すアマリリスの、

ツンデレにしても頑強な拒否反応に、ベラキュリアまでもが怪訝な顔を見せた。


「委細は知り申さぬが、無階級逗留者である貴下から左様な注文は承りかねる。

異議あらば、彼の異能者を通して上申されるがよい。」


「、・・・・」



足早に歩調を合わせた数人分の足音が容赦なく近づいてきて、おそらく十歩ぐらい離れた場所で停止した。

それでもアマリリスはそちらに背を向けたまま、マフタルの背後に隠れていた。


鬼のファーベルを前にした時ともまた違う怯えと気まずさにまみれ、

もうひとつ往生際の悪いことに、そんな気まずさを自分に感じさせるアマロックに、腹を立ててもいた。

それで余計に、どんなにか会いたかったその姿と目を合わせることができなかった。


「ほら、ジェーブシカ、、」


いたたまれなくなったマフタルに何度か促され、ようやく彼の影からは出てきた。


・・・むしろ、叱ってくれても。

何やってたんだ、心配かけて。とか言って、怖い顔で頭をコツンとしたあと、不意にぎゅっ、て、、


でも分かってる、アマロックはそんなことしない。

怒ってないし、心配もしてくれない。

それでも迎えに来てくれたのは、少しはあなたにとって必要だからなの?


勇気を出して顔を上げたアマリリスは、ギクリとして後ずさった。

目に飛び込んできたのはかつての自分――銀の毛皮のオオカミの姿だったのだ。

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