第275話 星にかける願い#2

こんな年若い、幼いとさえ言いうる少女の胸に、これほど複雑で根深い考えが隠されていることを知ったら、大人は驚いただろう。


アマリリスに対するファーベルの感情がまだしも反感に留まり、嫌悪や敵意に至らなかったのは、一重にファーベルの自制心に他ならない。

ファーベルはこの姉弟を深く愛してもいたから、自分が彼女を憎むことを決して許さなかった。

そして自分が誰かを憎むという考え自体が、ファーベルにはひどく恐ろしく、受け入れがたかった。


ファーベルはおそらく聡明すぎたのだろう。

聡明であることは、もちろん善い、誇るべき資質ではある。

不幸だったのは、ファーベルが、年齢をふくめ彼女自身や彼女を取り巻く環境や、経験といったものから望ましい以上に、聡明すぎたことだ。



聡明な一方で、なかなかうまく扱えないものもあった。

ファーベルの心の中、ヘリアンサスへの同情から派生したある感情もそのひとつで、

彼女自身がその存在に思い到らずにいた。


アマリリスに対するヘリアンサスの愛情が、ファーベルの心を揺り動かしていた。

これほど真摯に実直に、惜しみなく注がれる愛というものを、ファーベルはヘリアンサスを通して初めて知った。


それは決して、ファーベルが愛情に欠乏していたということではない。

父親であるクリプトメリアからの愛情、マグノリア時代にファーベルを可愛がってくれた家政婦からの愛情。

そのほかにも学校の先生や、同級生とその両親との愛情といった、自分のものも他者のものも、多くの愛情の実例をファーベルは知見してはいた。


けれどそれらは父親から子への愛であり、家政婦からの愛であり、そうあるべきようにある穏やかなもので、特段心を動かすようなものでもなかった。

そしてファーベルも、愛情とはそういうものだと思っていた。


それがヘリアンサスによってくつがえされた。

こんな羨望せんぼうの対象となるような愛情があることを知ったのである。

そう、『うらやましい』と思いながらも、ファーベルは自分でそれに気づいていなかった。


彼女がヘリアンサスに対して自覚していたのは、報われない愛への同情だったが、そこから派生して、あるいは隠れみのとして、

愛するものを奪われた者同士の連帯感、これほどにも深い愛情を自分のものにしたいという欲求、さらにそれによって、アマロックを奪っていったアマリリスに報復したいという願望といったものが、

やがてはまばゆい星を産む星間塵のまどろみのように、ファーベル自身が感知しない心の暗がりの奥で、静かに息づいていた。

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